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50.銀幕デビュー(1)
「ふぅ、腹いっぱいになったな」
「ボクもー。お子様ランチは初めて食べたけど、好きなものがたくさんあっておいしかったよ」
そう言ってお腹をさするミオを見るに、いかにお子様ランチと言えど、少食なこの子にとっては、さぞや大盛りの食事だったんだろうな。
実際エビフライを一尾貰ったし、生クリームがたっぷり乗ったプリンも、自ら進んで食べさせてくれたからね。
ちなみに、あのレストランでお子様ランチを運んでもらった時、食事の傍らに、特に動力がないミニカーのおもちゃが〝おまけ〟として添えられていた。
一応タイヤは回るようだが、このミニカーの売りは、車内のステアリングやシート、ダッシュボードなどの造形が細かい事だ。
かわいいものが好きなミオにとって、小さい車にどういう反応を示すのかと興味が湧いて、その動向に注視していたが、袋から取り出す事もなく、そのままショートパンツのポケットにしまい込んでいた。
ミオも車内の造形を見て、ミニチュアとしての興味は持ったようだが、車のデザインそのものには惹かれなかったらしい。
「アーケードの中、涼しいね。お兄ちゃん」
「そうだな。天井からの太陽光とか熱気を防いでくれるし、お店が動かしてるクーラーの涼しい風も流れてくるから、ひんやりするんだろうな」
「なるほどー。じゃあ夏の間は、ここに遊びに来ればずっと涼しいんだねっ」
「はは……そうだな。確かに涼しいよ」
思わず苦笑いしてしまったが、ミオの言っている事の真意が、我が家の電気代を節約するためだというのなら、実に合理的な発想だと思う。
ここ、咲真市に唯一存在するアーケード商店街は道路が相当広く、ところどころには、簡素ながらもテーブルや椅子が置かれ、いつでも誰でも休めるようになっている。
つまり、客がその気になりさえすれば、携帯ゲーム機やらスマートフォンをいじりつつ、涼を取り続ける事も可能だと言うことだ。
とは言え、そんな涼み方をしたって、いずれは腹も減るし、喉だって乾く。そのための手段として、アーケード商店街で現地調達した飲食物を口にするんだと思うと、この休憩スペースは、フードコートの一部みたいな役目も担っているんだろうな。
「おや? この映画館、まだやってたのか。一時は危ないって噂だったのに」
「えー? 映画館が危ないってどういうこと? 怖いのばっかり見せられるとか?」
「ふふ、それは確かに別の意味で危ないな。俺が人づてに聞いたのは、経営の話でね」
「ケーエイ?」
「けいえい、ね。何というか、あんまりお客さんが来なくて、資金繰りがうまくいってないって噂だったんだ。要は映画館を続けるだけのお金が足りないってことさ」
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