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50.銀幕デビュー(2)

「ふーん。でも、今こうしてポスターを貼ってあるってことは、シキングリは大丈夫って証拠じゃないの?」 「そうかもな。こうしてポスターを見た感じだと、最新作の上映はもちろんだけど、レトロ映画の企画を立てる余裕すらあるみたいだ」  ちなみにそのレトロ映画とは、深作欣二(ふかさくきんじ)監督の傑作『仁義なき戦い』シリーズ第二弾だった。全国の映画館で初上映を飾ったのは、もう五十年くらい前の話なので、ミオはもちろん俺すら生まれていない。  この作品の一番の見どころは、やはり千葉真一が扮する大友勝利(おおともかつとし)の狂犬ぶりだろう。連合会々長である実父が仕切る戦後のマーケットに何ら興味を持たず、男たちが欲望を満たすためには、とにかく(ゼニ)が要るのだと力説する。  で、その銭を得るためには、競輪場の警備を担当している別のヤクザ、村岡組の目を盗み、場内での過激な爆発事故を起こし、未然に防げなかった村岡組の幹部を口汚く罵り、市会議員をも脅して、年間でおよそ十億円にも及ぶ競輪の儲けを吸い取ろうと目論んだのである。  ……とまぁ、極力端折っても説明はこんなに長くなる。それだけ、本作にはシノギを削る、血で血を洗う戦いの顛末がわずか一本の映画にぎっしり詰まっているため、レビュアーの評価は軒並み高い。  エンターテインメントと呼ぶのは適切ではないが、とにかくリアリティに満ち溢れていた作品群であったからこそ、影響を受けたと思われる実録ヤクザ映画がたくさん生まれたのだろう。ただ、内容が内容であるだけに、うちの子猫ちゃんに『仁義なき戦い』を見せる訳にはいかないよな。  もっとも、本作『広島死闘篇』にはバイオレンスな描写がふんだんに散りばめられているため、この映画館は独自で年齢制限を設け、厳しく管理しているらしい。つまり、どちらにせよ、まだ十歳のミオが見る事は叶わないというわけだ。  DVDを買ってきてまで見せたいわけじゃないし、そもそも名作は媒体を変えて生き残り続けるのだから、ミオが大人になって、興味を持った時にこそ、何らかの形で鑑賞すればいいと思う。 「ねぇねぇお兄ちゃん。ここに書いてある、ショートフィルムって何のこと?」  ミオは映画館前にある、木造の立て看板に貼られたポスターを指差して尋ねてきた。 「ああ。それはね、いわゆる短編映画なんだよ。平たく言うと、上映時間が短い映画って事だな」 「それって、テレビで見る映画よりも短いの?」 「短い場合もあるよ。テレビで放映する映画は、だいたいCMを挟む時間を考慮して本編をカットするんだけど、それでも有名どころの映画は、一時間以上は確実にあるからね」 「ホンペンヲカット?」 「そう。本編をカット。こんな感じで」  俺は、まだ理解が追いついていないミオに分かりやすく説明するため、両手の指をハサミに見立てて、ジェスチャーで架空のフィルムを切ってみせた。

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