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50.銀幕デビュー(5)

「つまり、だ。映画のコンテストは、プロの監督を志望する人たちのとうりゅ――」  あっと、まずいまずい。またミオが知らなさそうな「登竜門」という言葉を使ってしまうところだった。 「あのー、えーとな。コンテストに参加する理由は、監督のオーディション的な側面があるから、と言うか」 「あ! オーディションなら分かるよ。学校で聞いたことがあるの」 「へぇ、学校で?」  小学校でオーディションって何だろう? ジュニアアイドルとか? 「あのね。他のクラスにすっごくかわいい女の子がいて、その子が俳優のオーディションを受けたって話してたんだー」 「俳優ねえ。テレビドラマか舞台か、あるいは映画の子役か……」  それ以前に、うちのミオを差し置いて、よりかわいい女の子が、果たしてこの世に存在するものだろうか。  まぁ十歳かそこらの子がオーディションを受けたと言っても、大抵は親かきょうだいが勝手に応募して、やむなく参加したケースが多いんだろうけど。 「で、その子は合格したの?」 「うん。でも、その子は映画の中でも五秒くらいしか映らない役なんだって聞いて、がっかりしてたらしいよー」 「ええ? たった五秒しか映さない子を選ぶために、わざわざオーディションを開いたのか。それで、肝心のセリフはあったのかい?」 「んーん、セリフも無かったって聞いたよ。何て言ってたかなぁ。確か、監督さんがカンペキシュギな人だから、ワキヤクも手を抜かないんだって」 「へぇ、ずいぶんな力の入れようだな」  ミオが伝え聞いた話を総合すると、わずか五秒くらいの出番しかない女の子を、監督自らが審査するオーディションで選んだ事になる。ミオと同学年の娘を。  一体どんな映画を撮っているのか知らないけれど、たったの五秒じゃ映画俳優のポスターに名前は載らないだろう。その監督は脇役と称しているが、これじゃあ端役(はやく)も端役、何ならエキストラと言っても差し支えないくらいだ。何しろセリフすら無いんだからね。  ミオの通う学校で一、二を争うくらいの美少女ですら、そんな役しかあてがわれないのか。映画の世界は厳しいんだなぁ。 「まぁ、それはそれとして。短編映画の話に戻るけど。そのオーディションで勝ち抜くために、あえて短い映画を撮って、自分の監督としての腕前をアピールするんだよ」 「腕前? 監督の人って何するの?」 「え?」  突如として、営業職の自分とは、全く畑違いな部門に関する仕事内容の質問が飛んできたので、思わず言葉に詰まってしまった。  映画……いや、演劇やテレビドラマも全部ひっくるめた監督が、一体どのような役割を担っている存在なのか、事細かに知っているのは、その業界に精通している人くらいなものだろう。

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