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50.銀幕デビュー(9)

「これ、外国の映画みたいだけど、寝台特急は日本にもあるの?」 「どうだったかな? 俺がミオくらいの歳だった頃は、宣伝も活発に打ってたし、実際よく走ってたもんだけどなぁ。今はめっきり減っちゃって、もっぱら旅行目的で運行しているのがちょいちょい残ってるくらいだったような」 「んー? なんで減っちゃったの? ベッドが硬いとか?」  生まれてこの方、寝台列車というものに乗った事がないミオは、かつて夜を徹して運行していた列車の利便性を知る術がない。だからこそ、知らないなりに推論を立てて尋ねる以外の手段がないのである。 「少なくとも、俺が寝た時のベッドの硬さはそこまでじゃなかったかな。実際のところは別にあって、例えば、儲けがごっそり減って採算が合わなくなったとか、他の乗り物で移動する人が増えたから、そんなところだろうね」 「他の乗り物って、車のこと?」  ここまで質問内容が変わってしまった事から察するに、どうやらミオは、映画よりも、バリエーションが増えた、昨今の長距離移動の手段に対する好奇心が芽生えたようだ。 「そうだな。車なら俺たちがここへ来たように、高速道路を使って移動する事もあるだろうね」 「楽しかったねー。道は混んでたけど、途中でお休みして、一緒においしいご飯も食べられたんだし」 「はは、ミオにそう言ってもらえて良かったよ。さすがに、あれくらいの混みようは想定してなくて、結果的に退屈させちゃったからさ」 「ううん、いいの。お兄ちゃんといっぱいお喋りできて楽しかったから!」  優しいなぁ、この子は。十歳のショタっ娘ちゃんがこんなにも心遣ってくれているというのに、あの女は……いや、止めておこう。  たぶん二度と会わないから、何かにつけて罵声を浴びせられたり、デートをドタキャンされたり、やたら高いものを買わされたりと、あれこれ振り回される心配はもう無い。  ――何と言っても。抱きしめた俺の腕に、頬をすりすりして甘えてくるミオと一緒にいるだけで、かつて、散々冷や水を浴びせられた、あの悪しき記憶が風化されつつあるのだから。 「えっと。さっきお兄ちゃんは『他の乗り物で』って言ったでしょ? ってことは、乗り物は車だけじゃないんだよね?」 「そうだな。まず、同じカテゴ……似たような移動手段として、高速バスに乗って目的地を目指すってのもあるんだ」 「バスって、ここで降りますボタンを押してお金を払う、あのバス?」  ミオは真っ先に、テレビの企画で路線バスを乗り継ぎ、目的地を目指す番組を思い浮かべているようだが、無理もないな。  でも、あれは徒歩での移動も含めれば、一種の修行みたいなものだから。

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