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50.銀幕デビュー(11)
「ま、高速バスっつってもいろいろ種類があるから、そんなに危なくはないよ。二人まとめて予約を取れば、隣同士にしてくれるからね」
「そうなんだ。良かったぁー」
ホッと胸を撫で下ろすミオを見ていると、遠くない未来に、高速バスに乗る事を頭の中でシミュレーションしていたかのようだ。
まぁ嫌だよな。仮に、全然面識のないおっさんが隣に座ってきて、夜中ずーっと大いびきをかかれたら、ミオじゃなくても嫌な気持ちになる。
もっとも、もう二列シートが主流の時代じゃなくなってきてるし、あらかじめ、ネットでバスの座席を下見できるのだから、嫌な思いをする危険性はまずないだろう。
「で、だ。他の移動手段としては、新幹線に飛行機だろ。あと、そんなに急がないなら、フェリーという大きな船で目的地を目指す手段もある」
「船! 魚釣りできる?」
船というキーワードが出たことに食いついてきた、子猫ちゃんの瞳が一段と輝きを放っているように見える。
「いやぁ、フェリーの移動速度は結構なもんだから、釣りには向かないよ。そういうのは渡船や釣り船の役目だな」
「釣りはできないの? 残念だなぁ」
船があれば海の上で魚釣りができる、と考えるのも無理はないが、仮に停泊しているフェリーの高さから釣り糸を流せるのかどうか。
「まあまあ、船釣りに関してはまた考えるとして、移動手段の話に戻すけど。一番早いのは飛行機だね。これは段違いだよ」
「へぇー。その次は?」
「次は新幹線だな。飛行機のおよそ三分の一くらいだけど、それでも三百二十キロくらい出せるんだ」
「すごいねー。新幹線も速いけど、飛行機はその三倍なんでしょ? 遠いとこでもすぐ着いちゃうね」
「そういう事だな。でも最終的には、目的地に最も近くて、交通の便が優れた駅か空港を選ぶんじゃないかな」
「コーツーノベン?」
「うん。駅や空港から出ている、目的地へのバスやらタクシーやら、はたまた鉄道に乗ることになるのか……ってな具合で、いろんな移動手段があるんだよ」
「なるほどー。着いた駅と空港はほんとの目的地じゃないから、他の乗り物を使って、行きたいところを目指すってお話だよね?」
「その通り。ミオはとっても賢い子だね」
「そんなことないよー。お兄ちゃんが分かりやすく教えてくれたおかげだもんっ」
ついつい謙遜 してしまったものの、大好きな彼氏に褒められた事がよほど嬉しかったのだろう。耳がほんのり朱く染まったミオは、俺の腹に顔をうずめ、腰回りを抱き包んだ。
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