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50.銀幕デビュー(13)
と、チュロスを作った事がない男が謙遜してみても、ミオの俺を見る尊敬に満ちた眼差しは、とてもキラキラしている。
細かい話になるが、日本において、チュロスという名前は、某企業が特許庁に各商標の登録を出願を行い、正式な登録査定を受けている。その際に発生した、出願料と登録料はもちろん納付済みだ。
ただ、ひとたび登録したら一生使えるというわけではなく、五年、あるいは十年ごとに登録料を納付して更新しなければ、商標権が消滅してしまう(一応、存続期間が満了した日の翌日から六ヶ月以内の追納期間は設定されているので、仮に納付を忘れても、即座に消滅するわけではない)。
このような手続きを経て商標権を保持し続けているので、他社がチュロスという名称で商売するためには、某企業にお金を払ってライセンス契約を結ぶなどの手続きを取らなければ、たちまち商標権の侵害となり、最悪として裁判沙汰になる。
ちなみに、某夢の国で販売しているそれもチュロスなのだが、「○○チュロス」みたいな感じで、頭に名詞や架空の人名を付けるといったアレンジが施してある。
毎年、二、三千万人以上の来場者が訪れる人気テーマパークが「チュロス」という名前で販売している影響力は、とてもじゃないが計り知れない。
話を戻して、じゃあ「チュロス」という商品名の前後に単語や名詞、あるいは人名を付け足せば、商標権の侵害にあたらないのか?
俺が真っ先に抱いた疑問はこれだったのだが、答えとなる実例はいくつもある。有名どころだと、M社が登録査定を受けた『マックチュロス』あたりが記憶に新しい。
某夢の国を運営する企業は、国内において、チュロスに関する商標権を持たない。でも、現実としてチュロスの名を用い、来場者に販売している。これの意味するところが何なのか、一般人の俺には分からない。
考えられる手段としては、商標権を持つ企業と何らかの契約を交わしていているか、あるいは、法の抜け道を見つけて商売をしているか……。
さすがに後者は無いよなぁ。自社が生み出したキャラクターの権利に厳しいD社が、そんなスレスレな真似をするとは到底考えられない。もっとも、契約を交わした事を裏付ける証拠も見当たらないんだけど。
某企業の出願によって、チュロスの商標が登録査定を受けた年は、最古のものが一九八五年とある。それ以降も、同社によって出願された「チュロス」や「CHULLOS」という商標の画像は複数あるが、新しいロゴだったり、菓子、パンという区分以外での登録だったりする。主な読み方は「チュロス」、あるいは「CHULLOS」で一貫している。
よって、他の企業などがチュロスと似通ったお菓子を作っても、単純に「チュロス」や、「CHULLOS」とだけ名付け、それを事業として販売する事はできない。なぜなら、すでに登録され、更新を続けてきた商標を侵害する行為にあたるからだ。
ただし例外も存在する。その条件は「類似性が無い事」なのだが、ここから先を語り出すとキリがない。こういう分野は、本来なら弁護士や弁理士の先生方にお任せする仕事なので、門外漢である俺はそろそろ黙る事にしよう。
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