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50.銀幕デビュー(15)

「ねぇお兄ちゃん。この紙に書いてる、〝ろーどむーびーっ〟て何のこと?」 「ん? そうだなぁ。例えば、主人公が車やら電車やらに乗って、遠くへ旅をする間に誰かと出会ったり、トラブルに巻き込まれたりしながら目的地を目指す……のがロードムービーだったような」 「飛行機は?」 「うーん、飛行機はなぁ。発着陸の時、場合によっては飛んでる間もシートベルトを締めておかなきゃだし、出会いは無さそうだよ。それ以前に、飛行機はロードを走らないからね」  細かい事を言うと、一応、離着陸の時は航空機も滑走路を走る。でも、映画にするほど長く走行するわけじゃないし、そこにドラマが生まれるとしたら、トラブルで危機を迎えた航空機が無事に着陸する、虚実不問のドキュメンタリーくらいだろう。  あえて「虚実」としたのは、実態とその経過を追う某ドキュメンタリー映画において、取材する側の功名心がそうさせたのか、を仕込んで映像作品を作った実例が残っているからである。  話が横に逸れてしまったが、ひとつだけ言えることは、航空機を取り扱った映画はロードムービーには当たらないので、まず分類されないということだ。 「ロードってのは、『道』だったり、『道路』という訳し方をされるケースが多いな。ただ、『鉄道』という意味合いも持っているから、寝台列車にスポットを当てたんだと思うよ」 「へぇー。難しい言葉がいっぱいだけど、寝台列車はロードムービーと呼んでもいいってお話だよね」 「うん。実際に見てみないと分からないけど、ほぼ間違いなく、そういう解釈をしたんじゃないかな」  実を言うと、ロードムービーには、明確で厳密な定義がない。このジャンルが確立されるまでに、数々の作品において、多く用いられた乗り物がたまたま自動車だった……というだけで、必ずしも、乗り物が四輪自動車である必要はない。  四輪自動車以外を用いた作品の例を挙げるなら、二○○四年に封切られた映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』なんて、もはやタイトルの時点で自動車じゃなくなっている。  日本ではあまり使わないが、モーターサイクルという単語は「オートバイ」という和製英語へ言い換えられるように、れっきとした動力付きのなのである。  ちなみに、「モーターサイクル」をざっくり直訳すると、「原動機付自転車」になる。つまり、日本で広く普及している二輪車の原付(げんつき)も、モーターサイクルの一種として数えられるのだ。  他の作品を例に挙げると、一九九九年公開の『ストレイト・ストーリー』が特に有名だ。杖を二本持って歩くほど足腰の悪いお爺さんが主人公で、これもロードムービーに分類される。  仲違いしていた兄貴が心臓発作を起こしたという話を聞き、お見舞いとして遠く離れた兄貴の自宅へ向かうため、ストレイト爺さんがに乗って旅をする。その道中で、あらゆる人間ドラマに巻き込まれつつ目的地を目指す、というのが大体のあらすじだ。  以上の二作品も含めて考慮するに、その作品がロードムービーだと認められるためには、少なくとも「何らかの乗り物を移動手段として、長距離の旅をする」、という条件のクリアが不可欠となるようである。

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