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50.銀幕デビュー(16)
したがって、いかに長い旅路であろうとも、『スタンド・バイ・ミー』のような、四人の少年が徒歩で旅した映画を、ロードムービーとしてジャンル分けするのは難しい。
そもそも、作者のスティーヴン・キングだって、ロードムービーを目指して書き上げたわけでもないだろうし。
「お待たせいたしました。ただ今から、『スリーパーエクスプレス』、スクリーン四番の開場になりまーす」
「おっ、いよいよ上映時間か。今のうちに、スマートフォンの通信を切っとかなきゃだな」
「んん? 通信って切れるの?」
「うん、あっさりね。映画を見ている間に電話が鳴ったりとか、メッセージの届いた音がすると迷惑になるから、皆が興ざめしないために決められたマナーなんだ」
「なるほどー。学校にある図書室みたいな感じで、『お静かに』てことだよね」
「そうだな、確かに共通してるね。度の過ぎたおしゃべりも鑑賞の邪魔になるから、できるだけ小声にしたり、ささやくだけに留めておくのがいいだろうな」
今日が銀幕デビューとなるミオに、トゲの無い、やんわりとした言葉遣いで注意点を伝えたところ、大きく頷き、即座に理解を示してくれた。
このようなマナーに関して、某戦争映画では、生き残った部隊が進撃に転じた場面で、心を揺さぶられた観客たちは大いに喜び、拍手喝采で彼らの活躍を後押しした……という逸話が残っている。
それが上映終了後でなく、上映中に起きた出来事だというので、昔はよほどマナーにゆるかったのか、あるいは共感した他の観客たちから、寛大な気持ちで受け止められたかのいずれかだろう。
さすがに今はご法度だけど、という前置きをした上で言わせてもらうなら、感情を共有するのは良い事だと思う。それは即 ち、胸を打たれた観客たちの中で一体感が生まれるほど、作品の演出が上手かったという証なのだから。
「ねぇお兄ちゃん。静かにするのは分かったけど、この英語と数字はどういう意味なの?」
「え?」
ミオが英語だと言うから、一体何の話なのかと思ったが、どうやらチケットに印字されている、アルファベットの意味が分からなくて質問してきたようだ。
「ああ、それは指定した座席を表す英字と番号なんだよ」
「エイジ?」
「……念のために言っとくけど、英字は人の名前じゃないぞ」
「そうなの?」
キョトンとして聞き返す様子を見るに、この子はおそらく、俺がいきなり人名を名乗り上げたものだと思っているらしい。
なかなかの天然ぶりだなぁ。チケットの話をしている最中に突然、何の脈絡もなく、どこにいるやも分からないエイジさんを呼び出してたら、俺は相当ヤバい奴だよ。
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