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50.銀幕デビュー(22)

 横文字が苦手なミオは、スクリーンに何が書いてあるのかが分からない。消えては現れるロゴを目で追っては、そのつど本編が始まったのかと期待を寄せ、がっかりして座り直す。 「お兄ちゃん、これもヨコクヘンなの?」 「いや、もう始まってはいるんだけど、最初に映画を作ったスタジオやら、配給会社やらの紹介を先にやっちゃってるんだね」 「ハイキュウ? 何だかお菓子みたいな名前ー」 「はは、そうだな。順を追って説明すると、まず、映画を作ったスタジオから、制作会社がフィルムを買い付けて、そこから配給会社に売り出すんだ。で、これは面白そうだな……と踏んだフィルムを買って、ここみたいな映画館に売る仕事をするのが配給会社なんだよ」 「ふーん。売ったり買ったり忙しいんだね」 「まぁね。その売ったり買ったりしたところの各々が、その映画に関わる権利を持っている証を明らかにしたくて、公《おおやけ》にしているんじゃないかな」 「んん? ねぇお兄ちゃん。ひょっとして、映画の時間って、これも含めて三十五分ってことなの?」 「お。なかなか鋭い質問だね。実を言うとそうなんだ。あと、最後のスタッフロールも上映時間に含まれるから、実質、本編は三十分くらいかと――」 「すたっふろーる? 何だかケーキみたいな名前だねー」  スタッフロールからロールケーキを連想したミオは、質問の答えを何となく理解し、納得したらしく、方々(ほうぼう)のスピーカーから流れる電車の走行音に耳をひくつかせながら、スクリーンの方へと向き直した。  せっかく商店街まで足を運んだ事だし、今日はこの映画を見終えたら、おいしいロールケーキでも買って帰って、皆でおやつの時間を楽しむとしますか。  ――それにしても、この映画。  今度新作が封切りになる、新進気鋭な監督のデビュー作なもんだから、どんな出来なのかと思って期待を寄せはしたが、物語は結構ベタなんだな。  都会で事業を興そうとして、単身でシカゴまでやって来た若者のサクセスストーリーを描く作品、かと思うと、全くそうではない。  物語は、主人公であるデヴィッドという名の青年が、都会で一旗揚げるために、田舎でこさえたくしゃくしゃの企画書でプレゼンを行い、出資者を(つの)るところから始まる。  なかなか色よい返事をもらえないデヴィットに目をつけたのが、シカゴの不動産王と名高い、メイザーという男である。中年太りでちょび髭が目立つメイザーは、デヴィッドに一切合切の資金を用立て、ついに念願の創業を果たす事ができた。  強力な後ろ盾を得られたデヴィッドは、持ち前の商才でメキメキと業績を上げ、優秀な部下を雇い、事業という事業を次々と軌道に乗せていく。  しかし、デスクを置く場所も無いくらい膨らんだオフィスが窮屈だとの声が上がり始め、それを受けたデヴィッドは再度、パトロン兼不動産王であるメイザーのもとを訪れ、もっと大きく、条件がいいオフィスの一室を確保できないか、相談を持ちかけるのだった。

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