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50.銀幕デビュー(23)
だが、この相談ごとには致命的な落とし穴が仕掛けられており、デヴィッドの命運は、いともあっさり尽きる事になってしまったのである。
確かにメイザーは、現状よりも大きく広いオフィスを確保してくれた。だが、デヴィッドが会社を興す際にメイザーと交わした契約書の「落とし穴」に気付かなかった彼は、役職を追われ、追放された挙げ句、必死の思いで育て上げた会社を、丸ごとメイザーに乗っ取られてしまったのだ。
自らがサインした契約書が決め手になったので、法に訴える事も叶わず、弁護士にも見放され、孤立したデヴィッドに反撃する手立ては残っていない。
失意と極度の人間不信に陥ったデヴィッドができる事といえば、手元に残ったわずかなお金で夜行列車に乗り、生まれ育ったユタ州の実家まで、心の傷が癒えぬまま、着の身着のままで帰還を果たすこと。
それ以外の選択肢が思い浮かばないほど、デヴィッドの精神は、極限にまで追い詰められていたのだ。
――と、ここまでが、上映開始後十五分くらいで進行したお話の要約である。
なかなかに胸クソの悪いシナリオだなぁ……と思っていたら、隣にいるミオも同じ感想を抱いたらしく、いつの間にか、苦虫を噛み潰したかのような表情へと変容していた。
ミオはまだ十歳で、悪い大人の汚らわしさとは無縁な子供だから、複雑な社会の構造には当然詳しくない。とは言っても、さすがにこすい大人が、がむしゃらに働いた若者の財産を、不当に没収した事くらいは分かる。
だからこそミオは、メイザーに対して負の感情を抱き、眉をひそめたのだろう。
「ねぇお兄ちゃん、お話してもいい?」
ほぼ無一文となり、おぼつかない足取りで駅へと向かうデヴィッドの背中を追いながら、切ないブルースがかき鳴らされるシーンを好機と見たミオが、ささやき声で話しかけてきた。
「うん、いいよ。何だい?」
「えっと。あのメーザー? って名前のおじさんは、どうしてこの人にいじわるしたの?」
という質問の主旨を吟味するに、たぶんこの子は、この映画の筋書きが、幸せを掴むデヴィッドの物語だと思って見ていたのだろう。
ところが一転して、メイザーの罠によって奈落に突き落とされた惨状を目の当たりにしたミオは、主人公に感情移入していたがあまり、まるで彼と分かち合うかのごとく、表情が曇ってしまっていたのである。
「そうだなぁ。何というか、大人の世界は色々と複雑なところがあって、知り合った人の全員が、必ずしもいい人だとは限らないんだよ」
「じゃあ、あのおじさんは悪い人ってこと?」
「今のところは悪い人だね」
「むー。お兄ちゃんもお祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、学校の皆も優しいのに、このおじさんだけ嫌な人ぉ」
「はは……よほどお金にがめつい人なんだろうな」
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