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51.帰路にて(4)

 その答え合わせとして、有名どころな映画のレビューサイトを開き、評判をチェックしてみたが、案の定だった。  映画そのものに対する評価は厳しく、星十個が満点の中、たったの二個しかない。つまり、俺たちも見た『スリーパーエクスプレス』は、観客からは〝駄作〟の烙印(らくいん)を押されてしまったのである。  わざわざ映画館に足を運んで、お金を払って見に行った人のレビューだから、その信憑性(しんぴょうせい)は疑うべくもない。  最も多かった見出しは「撮る映画を間違っている」という辛辣(しんらつ)なダメ出し。  もっとも、主人公が失脚してしょげ返るさまは、俺たち同様に、目も当てられないほど辛かったらしい。そこまでのめり込ませる脚本と演技の上手さには、特に不満はないようだった。  レビューを書いた人の中から、本作に低評価をつけた理由をいくつか挙げてみると、「題名にそぐわない奴がでしゃばりすぎ」とか、「ロードムービーのジャンルに偽りあり! まるで詐欺師のサクセスストーリーを見ているようだった」のような、ジャンル分けへの批判が最も多かった。  酷いものになると、「列車の走行音がいい子守唄になった。それ以外に褒めるところは何も無い」とまで書かれる始末。  悪役の育成をする意図があったのは分かるけど、だからって映画本編をおざなりにするのはやめろ! という不満の書き込みもチラホラあった。  そりゃそうだよな。何しろ観客は、いち娯楽としてロードムービーを楽しみに足を運んだんだから、その中身がまさか、あんなに胸くその悪い転落劇だとは思わないでしょうよ。 「ごめんな、ミオ。初めての映画だったのに――」 「いいの。キスしてもらっちゃったから!」 「はは……」  ミオが上機嫌なのは良い事なのだが、今になって、あの映画館でキスした俺の大胆さが小っ恥ずかしくなってきた。いくら手の甲にとは言え、あんな人の集まる場所で暗がりに乗じるなんて。  思い出せば思い出すほど、顔がほのかに熱を帯びてくる。耳たぶが火照っているように感じるのも、きっと同じ理由によるものだろう。 「ねぇねぇ。お兄ちゃんは、どんな映画が好きなの?」 「んっ!? 映画のジャンル、じゃなくて、種類の話かい?」 「うん、そうだよー。映画が始まる前の予告編みたいに、いっぱい種類があるんでしょ?」 「ああ、確かにあるね。今日見たのは別物だけど、ちゃんとしたロードムービーもあるし、アクション系は、ほぼ鉄板だね。ミオは怖がるだろうけど、ホラー映画もジャンルのひとつではある」 「テッパン? お兄ちゃんが食べてたハンバーグのお話?」 「え?」 「むむ?」  いかん。俺が(ぞく)っぽい言葉を使ったせいで、「何の話?」みたいな空気が漂い出してしまった。隣の助手席に座って言葉を交わしているのは、まだ十歳の幼いショタっ娘ちゃんなのだから、お笑いや競馬で用いる俗語を知っているわけがないのに。

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