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51.帰路にて(7)

「え? あ、ああ、そっか。俺もちょっと考え事してたから、気が付かなかったよ」  俺は、慌てて左手を放したミオに微笑みかけると、即座に車のギアを入れ替え、左右の安全を確かめてから踏切を渡る。 「えへへ。お兄ちゃんがナデナデしてくれたから、嬉しくて、いつもみたいに甘えちゃってたよー」 「分かるよ。俺もこの踏切は、待ち時間が長いのを知ってたからさ。ちょっとくらいならナデナデしてもいいかな、って思ってたし」  てな感じで、少しは大人の余裕があるところを見せたかったんだけど、手を放すのが惜しいと思うほど、甘えることに熱中してくるミオが愛しくて仕方ない。  男の娘も同じなのかは分からないが、ミオのようなショタっ娘ちゃんがひと度恋に落ちて、彼氏に対してここまで積極的になるとは思わなかったな。  リゾートホテルで出逢った双子のショタっ娘、レニィ君とユニィ君も、やはりミオのように積極的に甘えてくるんだろうか。  抱っこしたりナデナデしたり、同じベッドで寝るくらいは健全な範囲だと思う。それ以上、何をするわけでもないという前提ありきだけど。  普段の生活ならば、さっきのようなナデナデ・スリスリなスキンシップでも、二人の心はたちまち愛で満ち溢れていく。だからこそ、俺はこれ以上、ミオへの愛情表現を発展させるつもりはない。  俺の彼女がまだ、性教育の授業を受けていないミオだから尚更だ。望む、望まない以前に、何をどうすればいいのか学んでいないがゆえ、キスこそが至高の愛情表現だと思っている。  ちょっと偏った考え方にはなるが、何なら未習のまま卒業してくれても良いんだけどな、性教育。どうせ進学に(ともな)い、ませたクラスメートを通じて知らされる事になるんだし。  余談だが、愛情表現のぼかし方として古来から使い回された、〝恋愛のABC〟という隠喩(いんゆ)がある。個々の詳しい意味には触れないが、A(キス)ならともかく、Cまで行こうなんて気はサラサラない。  ちなみに現代では、ABCに打って変わり、〝HIJK〟という風にステップしていくのが新しいそうだ。  各アルファベットが示す意味を説明をするのは、ABCより生々しくなるから止めるとして。仮に、〝HIJK〟このステップの順番通りに進むなら、デキ婚、(すなわ)ち「できちゃった結婚」ありきという話になる。  他にも〝DEF〟という順序……らしきものがある。先ほどのHIJKもそうだけど、結局ABCの系譜なんだよな。アルファベットを用いて、行為や現象の隠語にするという特徴には、一切のブレがない。

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