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51.帰路にて(14)
そもそも俺は、どうして今、鎌倉幕府が成立された年号やら、当時における征夷大将軍の意味するところなどの考察を、ミオに説明しているんだろう。
さっきまでは、如月レニィ君・ユニィ君宛に送った手紙の話をしていたのに、手紙を通信だと分類する根拠から、えらいところへ話が飛躍してしまった。
そりゃあミオも反応に困るよな。
「ごめんごめん。話の途中でフッと出てきた単語が気になって、そっちの方に話題が逸れる、俺の悪いクセが出ちまったよ」
「いいよー。お兄ちゃんの雑学、いっぱい聞きたいから。ボクも気付かなかったけど、自然にヨリトモさんの話になったちゃったね。うふふ」
ミオはいつも、こんな風に話題がコロコロ変わっても、「大好きなお兄ちゃんのお話だから――」と、慈愛に満ちた包容力で許してくれる。まるで天使か女神様のようだ。
これが運転中じゃなかったら、今すぐにでも抱っこして、ふわふわでいい香りがする頭を撫でてあげたいんだが。
「話を元に戻すと、文通するお相手の事は〝ペンフレンド〟って呼ぶんだよ。手紙をしたためる時に使うペンと、お相手のお友達がフレンドってわけ」
「なるほどー。離れたところに住んでる人と、お手紙のやり取りをするのが『文通』なんだね!」
「そう。携帯電話はおろか、ポケベルやダイヤル式電話すらなかった時代は、遠く離れた友達や恋人との連絡手段として、手紙を送り合っていたのさ」
一応、他の手段として電報もありはするんだが、その役割としては、遠くで働く我が子へ「チチキトク スグカエレ」みたいな急を要する場合の打電が多かったと聞く。
もっとも、そういう危篤電報(ウナ電とも)は電話の普及により廃止され、今はもっぱら重役就任や冠婚葬祭の祝福とか、あるいはお悔やみの言葉を届ける手段として打電されるようだ。
「わぁ、初めて聞く名前ばっかりだー。ダイヤル式電話は、とにかく電話だって分かるけど、ぽけべるが分かんないよ」
「だろうな。ポケベルが全盛期だった頃は、俺も生まれてたかどうか怪しい頃だからね」
「それってどんな機械なの?」
「機械というか、機器の方かな。例えば、電話をかけてきて欲しい人に、持っているポケベルの番号に電話をかけると、受信したポケベルが通知してくれるんだ」
「通知?」
「そう、通知。ポケベルの画面に、通知音とポケベルを鳴らした人の電話番号が表示される仕組みなんだよ」
「通知音ってどんなの? 『デンワガキタヨー』みたいな声が出るとか?」
「はは、そういうのもあったかも知れないね。最初はピーピー鳴るだけだったけど、そのうち、文字を送れるようにまで進化したからな」
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