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51.帰路にて(15)

 少なくとも俺は、ポケベルの通知音に人間の声を用いた例を知らない。「メールガキタヨー」という面白音声を搭載している携帯電話があったのは覚えているけど、さすがに電車やバスでは鳴らせなかっただろうなぁ。 「通信って進歩してきたんだねー。昔は飛脚(ひきゃく)のおじさんが、走ってお手紙を届けてたのにね」 「それだけ必要とされてきたんだろうな。今じゃあ、遠く離れたところに住んでいる家族とか友達とも、電話一本でお互いの顔を見ながら通話ができるし。便利になったもんだよ」 「顔を見ながら? どうやって見るの?」 「俺がいつも持ってるスマートフォンがあるだろ? あの画面に、通話している相手の顔が映るんだよ。それをビデオ通話って言うんだけど」 「すごいねー。ビデオ通話って〝はいてく〟だね」  ミオはハイテクが何を指す言葉なのか、うっすらと理解してはいるようだ。が、その「ハイテク」を文字で視認する事によって覚えたのか、抑揚(よくよう)の付け方に、ちょっと違和感がある。  まぁ、抑揚なんてそのうち習得するでしょう。何しろ今のミオは、学校でクラスメートと楽しくお喋りしたり、テレビや漫画といった娯楽に触れる機会が増えてきたのだから。 「ところでさ、ミオ」 「ん? なぁに?」 「今言ったスマートフォンだけど、学校に持って来てるクラスメートの子はいるのかい?」 「うん、いるよー。ボクが知ってるのは十人くらいだけど。里香(りか)ちゃんは四年生に進級してからすぐ、お母さんに連れてってもらったお店でケイヤクしたんだって」 「ああ、あの美人なお母さんの事だね」 「そうだよ。……お兄ちゃん、美人な人のことはよく覚えてるんだね」 「え!? いやいや、こないだお祭りで会ったばかりじゃないか。そりゃ覚えてるって」 「ふーん。ならいいけど」  うちのショタっ娘ちゃんは、相変わらず広域にアンテナを張ってるなぁ。そりゃあ、美しい人に目を奪われる事はあるけど、だからと言って、既婚者を口説きにかかるような度胸は俺にはないよ。  佐藤じゃあるまいし。 「話を戻すけどさ。そのクラスメートの子たちがスマートフォンを持たせてもらった理由、誰かから聞いたことある?」 「んー? 理由は聞いたことないかなぁ。お家にいるお父さんとお母さんに電話するためじゃないの?」 「そうだな。スマートフォンの『フォン』は電話って意味だから、もっぱら家族の間で連絡を取り合う事が多いかもね」 「あとはね、クラスメートの子たちのほとんどが持ってるのは、〝きっずすまほ〟だって言ってたよ」 「ははぁ、キッズスマホか。て事は、子供でも扱えるように設計された、お手軽なスマートフォンを持たせてもらってるんだろうな」

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