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51.帰路にて(16)
俺は実物を見た事がないから、キッズスマホの大きさやらバッテリーの持ち、どんなソフトウェア、いや、今はアプリと呼ぶのが主流なのか。
とにかく俺はキッズスマホにおいて、今挙げた疑問に対する答えを全く知らない。「ならでは」のアプリは、一体何を導入しているんだろう?
「なぁミオ。ぶっちゃけたことを聞くけど、学校にキッズスマホを持ってきたクラスメートの子たちは、何に使ってるんだい?」
「んー? 何だろ。先生は、『下校時間まで電話はしちゃダメ』って言ってたから、皆は休み時間に、メッセージ……アルピ?」
「アルピ? もしかして、それってアプリの事かな?」
「あ! そうそう。メッセージアプリだよ。授業中は電源を切るようにって決まりがあるんだけど、ピロリンって音がして、先生に怒られてた子がいたの」
へー。授業中にメッセージアプリをねぇ。俺が学生だった時は、極々ありふれた話題を小さな紙切れに書き、丸めて飛ばし合ってたもんだが。
手段こそ違うものの、昔も今も、やってる事はだいたい同じなんだな。
「なるほどね。他には何かある?」
「うーん……防犯ブザーの代わりに使えるって話を聞いたことがあるけど、他はよく分かんないよ」
「防犯ブザーか! そりゃ大事な機能だね。いつ、どこに怪しい人が潜んでいるかも知れないからな」
「そだね。お兄ちゃんも、ボクにブザーを持たせてくれたでしょ? キッズスマホでも、あんな感じの大きい音が鳴るんだって」
というミオの話を総合して推察すると、キッズスマホは、ただ使いやすさを目指しただけではないようだ。
あの忌わしき襲撃事件以降、不審者による連れ去りや暴行などといった、いたいけな子供たちへの犯行を未然に防ぐべく、でき得る限りの安全確保機能を詰め込んだのだろう。
「よく考えて作ってあるんだなぁ。じゃあ、ミオも自分用のスマートフォンを持った方が安心かもだね」
「ええ、ボクが? でも、ちゃんと使えるか心配だよー」
「いいんだよ、最初は皆そんなもんだから。それに、必要な機能だけ覚えてしまえば、言うほど苦労はしないだろ?」
なんて言ってはみたが、実際のところ、「苦労はしないだろ?」みたいに、同意を誘導するようなやり口は用いたくなかった。
なぜなら、俺が勤める会社をクビ同然で辞める事になった、かつての先輩がこんな調子だったからである。
先輩という立場を笠に着て、「俺のプレゼン、面白いよな?」とか「あの営業先の社長、すげー感じ悪いじゃん。お前もそう思うだろ?」などと強引に同意を求めてくるので、俺たち後輩は答えに窮《きゅう》し、ほとほと困っていたのだ。
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