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51.帰路にて(18)

 とまで言ったところで、突然ミオが口をつぐんだ。  この子は、俺が佐藤から高級リゾートホテルの宿泊権を買い取った時や、晩ご飯をレストランで食べようと誘った時などは必ず、俺の懐は大丈夫か、予算をオーバーしていないかの心配をしてくれる。  その一方で、俺が何かを買ったりする際、毎度「大丈夫?」と尋ねる自分がくど過ぎはしないか……と思い悩むこともあるようだ。  こんなに愛らしい子猫系ショタっ娘ちゃんは、甘えんぼうさんであると同時に、恋人の気遣いも欠かさない優しさや、慎ましさを持ち合わせている。  ただ、俺は養育里親として、ミオを我が家へ迎え入れると決めた時から、「あらゆる財産をつぎ込む事になっても、絶対この子だけは幸せにする」という誓いを立てたんだ。  その幸せの一助になるツールとして、キッズスマホに白羽の矢を立て、ミオに持たせる事を提案した。  だが現状では、二人ともキッズスマホが持つ機能の全てを把握していないので、未知な部分が多いのも事実ではある。  それでも、かわいいミオが毎日、平穏無事に帰ってこられる可能性が一パーセントでも増すのなら、買えるものは何だって買うさ。たとえキッズスマホの価格が三万円だろうが十万円だろうが、俺は購入することに躊躇(ためら)いを見せたり、二の足を踏んだりはしない。  安全を金で買う、と表現するのは生々しく聞こえそうで何なんだが、その安全に大きく寄与する物が市場に出回っているのなら、糸目をつけずに買い与えてあげたいと俺は思うのである。 「まぁまぁ。ミオがお金の事を心配してくれるのは嬉しいけどさ。俺もそれなりに稼いでるし、何より――」 「ん? ん? 何より?」 「何より……その、恋人同士がな。電話越しではあるけど、いつでも繋がっていられるだろ?」 「それって、お兄ちゃんとボクが、ってことだよね?」 「うん。ほんとはそう言いたかったんだけどね。いざとなったら急に照れくさくなって、ついつい変な言い回しになっちゃったんだ。分かりにくかったよな」 「んーん、そんなことないよ! お兄ちゃんがそう言ってくれて、ボクも嬉しさで胸がいっぱいだよー。ありがとね」  はぁ。もう、たまんないな。こんな急ごしらえの、下手くそな口説き文句からでも愛を感じ取ってくれるんだから、俺にはもったいないくらいにできた彼女だよ。  だからといって、俺の大切なショタっ娘ちゃんは、誰にも渡すつもりはないけども。 「いやいや何の何の、ははは。とにかくこの話は、ミオもキッズスマホを持つ事が決まり、というシメでいいかな?」 「うん! どんな種類があるのか楽しみだねー」  ……とまあ、こんな感じで。  あらゆる会話を経て、ミオにスマホを持たせる話はまとまったのだが、肝心のアーケード街から実家へと続く帰路は、いつも以上のダダ混みで、なかなか前には進まなかった。  だけど、車内でミオと二人っきりの会話を交わすうちに、またちょっと愛が深まったような気がするんだ。  ミオにキッズスマホを持たせる事で、何がどう転がるかは、現時点では分からない。でも、きっと俺たちなら、必ずいい方向へ歩んでいけると思う。  そんな事を考えながらお喋りを続けているうちに、俺たち二人を乗せたマイカーは、普段の二倍以上にもわたる時間をかけ、ようやく実家へと帰り着けたのだった。

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