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52.夏の終わりに(2)
「――で、ミオは本屋で、大好きなアニメの本を買ってさ。その後しばらくして、昼飯を食いにレストランに行ったんだよ」
「アニメの本って何よ?」
あの映画館が立てる企画の特徴に関しては、お袋も、ある程度は把握しているようだ。よって、大した土産話にはならない。
そこで俺は、順を追って立ち寄った店やら、そこで買ったものやらの話に切り替えたのだが、お袋は「アニメの本」という、謎の言葉を聞くなり、即座にその正体を問い確かめてきた。
思い返せば、確かに本の正体を端折 りすぎたな。アニメと漫画を比べた場合、お互いの絵柄は勿論のこと、それぞれ動静のあるなしで明確に区別されるゆえ、俺がさも異様な事を口走ったように聞こえたらしい。
お互いが異なる媒体で展開する……という前提で話を聞いていたお袋のために、その見聞きした事のない物体について、もう少し詳しく説明する必要があるだろう。
「いや、何と言うか。毎週日曜に放送しているアニメがあるだろ? ミオがいつも楽しみにしているやつ」
「ああ。あんたがこの間、電話で何とかクッキーって言ってたアニメのことね」
「そう、それ。ちなみに正式名称は『魔法少女プリティクッキー』だからね。ミオと流行り物でお喋りしたいなら、ちゃんと覚えてなきゃだよ」
という俺の忠告を聞いたお袋は、テーブルに置いあったスマートフォンのメモ書きを利用して、うろ覚えだったアニメの正式名称を記録していく。
お袋、こういう時だけマメなんだねぇ。かわいい孫と共通する話題でお喋りできるのなら、あらゆる努力を厭 わないんだから。
「それで? 『アニメの本』は結局何なのよ」
「簡単に言うと、過去に放送したアニメの一コマを繋げて、漫画風に作ったやつさ。一般的な呼び方はアニメコミックって言うんだけどね」
「ふーん。ミオちゃんは、それを集めてるの?」
「うん。自分のお小遣いで。今日は俺が出すからって言ったけど、ミオは申し訳ないと思ったのか、一人でレジまで駆けて行っちゃったんだ」
「そういう子なのよ。心優しくて、責任感の強いミオちゃんだからこそ、あんたの事を思いやったんでしょう」
「だろうな……」
二杯目の麦茶を注いだ俺は、よく冷えた容器から伝う水滴を目で追いながら、喉から手が出るほど欲しがっていた、あの最新巻を見つけたミオの喜ぶ様を思い出していた。
「ところで義弘。ここだけの話だけど――」
「ん? 何だよ、急に改まって」
「ミオちゃんには、毎月幾 らあげてるの?」
お袋が突然、ささやくような声で問いかけてきたもんだから、一体何を言い出すのかと思ったが。要するにお小遣いの話をしたいのか。
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