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52.夏の終わりに(10)

 で、あるがゆえに、あの元カノと、かわいい孫のミオに用いた漢字ひと文字が同じである事に対し、変な憶測を挟んで結びつける事が許せないのだろう。  という憎悪を踏まえた上で、お袋の心境をもっと深く探ってみると、だいたいこんな感じになるかも知れない。  元カノは元カノ、ミオはミオ。二人が全くの他人である限り、これ以上「未」の字に共通点を話題にする意味がない。あの娘はともかく、ミオには何の罪もないのだから……と。  確かに、ミオとあの元カノには何ら共通点がない。性格の違いは言うに及ばずであるし、身体的な特徴として最も異なるのが、その髪の毛の色だ。  ミオの髪の毛は生まれつき、爽やかなブルーだから、その色つやがとても美しい。  かたや、あの忌々しい元カノは、「清楚」だの「奥ゆかしい」だのという言葉とは全く縁がなかった。とにかく自己顕示欲の強い目立ちたがり屋だったので、化粧も濃く、髪の毛は常に金色に染めていた。  金髪に限った話じゃないが、どれだけ完璧に染めたとて、地毛が頭皮から一センチくらい伸び、もともとの黒色が目立ち始めたら、染色である事が露骨にバレる。  その対比が目について仕方ないし、元カノに遠慮なく言うなら「見苦しい」悪あがきだ。  外国人モデルを意識したのだか何だか、聞けるような雰囲気じゃなかった。でも、あの濃ゆい化粧も含めて、未玲(みれい)は自分を良く見せたかったんだとは思う。  もともとが美形だっただけに、「そこまでして美を追究しなくても」と言わなかった、当時の俺にも責任があるのかも知れない。 「じゃあ、名前の漢字が共通している話はやめよう。とにかく、だ。元カノの名字と名前はこういう字で書いて、『うえはらみれい』になるんだよ」 「ふーん。お兄ちゃんは、そのミレイさんを何て呼んでたの?」 「え? そりゃ、普通に名前で呼んでたけど? お互い、アダ名とかも無かったし」 「美人だった?」  矢継ぎ早に聞いてくるなぁ。もっとも、今まで元カノの名前や外見を明かして来なかったし、お袋が洗いざらい喋っちゃえって言ったのも、現・彼女のミオに、元カノを反面教師として欲しい……という願いを込めているからだろう。ゆえに、俺が今更隠し立てする理由がない。 「確かに美人ではあったよ。佐藤が羨ましがるくらいにはね」 「義弘。佐藤さんってどなた?」  今度はお袋からの質問だ。そういえば俺は両親に、自分が勤める会社の同僚とか、上司の話をした事がないからなぁ。佐藤に関しては、ただのというひと言で片が付くんだけど、その言葉の意味をミオが問い確かめてきたら、また話がややこしくなる。

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