646 / 821

52.夏の終わりに(11)

「佐藤は俺と同期で、地元の大阪を離れて入社してきた奴だよ。とにかく女好きでね、脳みその八割は女の事でいっぱいなんだ」  という説明を聞いたミオが、鼻と口を覆ってクスクスと笑い出した。女好きの割合を多めに盛ったのが、よほどツボにはまったらしい。  まぁ、さすがに八割は言い過ぎだけど、間違いなく七割はあるから、そのくらいは誤差の範囲だ。 「そこまで女の子に飢えてるの? 佐藤さんは」 「あいつの場合は、付き合ってフラれるまでが早すぎるんだよ。だからバイタリティも半端じゃない。仕事で疲れてるだろうに、退社後には繁華街へナンパしに行ったりとかするしさ」 「お兄ちゃん、バイータリティって何?」 「バイタリティね。イは伸ばさないから。要するに、活力があるってことだな。例えば佐藤の場合だと仕事の疲れが残っていても、女の子と出会うためなら、繁華街をうろつく元気が湧いてくるんだ」 「それがバイタリティなの?」 「そう。余力が残っていたというより、女の子探しのために、仕事とは別物の新しい気力が呼び起こされる感じかな」 「ずいぶん張り切ってるのね、その佐藤さん。そんなに長続きしないの?」 「いやー。あいつの場合はさ、付き合い出した彼女とデートする時、やたら金のかかるホテルやら高級レストランやらを勝手に予約するんだよ。だから『計画性がない』って理由で見放されちゃうんだろうね」  お袋は、その計画性のなさがどの程度にまで及んだのか、よほど気になったらしい。佐藤から直接教えてもらった金額を伝え終えるや否や、驚きを通り越し、すっかり呆れ果ててしまった。 「はぁ。それは無理よねぇ。いくら稼いでいるのか知らないけど、身の丈に合ったデートプランを練らないと、彼女としては心配になるのよ。女性は結婚した後の事も考えるからね」  お袋も、やっぱりそう思うんだな。しっかりと未来を見据えた女性は、彼氏による後先考えない金使いの荒さを目にした時、「果たしてこの人は、我が子を成人するまで育てきれるのか?」と心配になるらしいが。  いっそのこと、互いに金を浪費する元カノの未玲(みれい)と佐藤が付き合ったら、意外とバランスが取れるんじゃないか? もっとも、あの佐藤をして、「死んでも嫌や」と言われるようなら、いよいよあの女も「金ヅル」という()り所がなくなるわけだが。 「その点、ミオちゃんは偉いわねぇ。自分のお小遣いで、漫画本を買ったり、貯金に回したりしてるんですって?」 「うん。ボク、お小遣いで三千円も貰ったことがないから、最初はビックリしちゃって。こんなにたくさん貰えないよーって言ったんだけど……」

ともだちにシェアしよう!