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52.夏の終わりに(13)

「あら、それはいい考えね。キッズスマホはGPS機能があるから、ミオちゃんが毎日、お家に帰れているかどうかの確認もできるし」 「んん? じーぴーえす?」  また未知のフレーズが出てきたので、横文字に弱いミオの眉間にシワが寄った。 「お袋。急にそんな難しい単語を口にしても、ミオには分かんないって。使い道よりも、まずはその単語の説明から聞かせてあげないと」 「え。GPSの説明? 人工衛星がどーたらこーたらじゃないの? お母さんもそのくらいしか知らないわよ」  人工衛星がどーたらこーたらして、ミオの動向を把握できるって? あまりにも大ざっぱすぎるだろ。そもそも、人工衛星の何がどうなっているのか、お袋自身も仕組みを理解していなさそうだ。  まぁ、日本国民の全員が人工衛星の仕組みや構造に詳しかったら、それはそれで〝一億総知識人〟という事になるんだけども。 「じゃあ俺が代わりに説明するよ。GPSってのはさ、宇宙に打ち上げられた人工衛星から出ている電波をスマートフォンに受信させて、持ち主の現在地を特定する機能のひとつなんだ。ここまでは分かる?」 「よく分かんなーい。どうしてボクのスマートフォンが、人工衛星から、じーぴーえすな電波をジュシンできるの?」  という返事から察するに、おそらくミオは、人工衛星そのものの存在について、施設にいた時か、あるいは学校の授業で学んだ事があるらしい。ただ、「電波の受信」という謎の呪文みたいな言葉が理解できないのだろう。  人ひとりの位置情報を割り出すための電波を発信している人工衛星は、一般的に『GPS衛星』と呼ばれる。地上からおよそ二万キロメートルの高度にて、独特な軌道を周回している衛星がそれだ。  ちなみに国際航空連盟(FAI)によると、海抜高度から百キロメートルより上にある空間を宇宙だと定義しており、その境界線は「カーマン・ライン」と呼ばれる。  が、そのカーマン・ラインは昨今になって、その距離に対する議論が起こっているので、必ずしも百キロメートルが正解だとは言い難い。だから、この用語を説明に含めるのは止めておこう。  知っておいて損はない知識として聞かせるならば、地上から宇宙までの距離を示す定義は、全世界において共通ではない、ということだろうか。  例えばアメリカ空軍においては、地上から八十キロメートルより上を宇宙としている。ただ、同じアメリカのNASA(アメリカ航空宇宙局)の場合、スペースシャトルが地球へと帰還する折に、宇宙から大気圏へと再突入を試みる高度の、およそ百二十キロメートルに特別な呼称を付けている。  つまり、先程のカーマン・ラインによる百キロメートルや、アメリカ空軍の八十キロメートル、NASAの百二十キロメートルというように、各々が線引きした宇宙への距離が異なるのなら、その定義に全く統一感がない証明にはなるのだ。

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