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52.夏の終わりに(26)
出どころの怪しい金、か。具体的に何を指すのか分からないが、だいたいの見当はつく。ただ、ミオが近くにいる以上、口にするのもはばかられる程忌わしい手段なので、俺は何も言わなかった。
「まぁ、直らないだろうな。お袋が目にした俺のスマートフォンに、『十万ちょうだい。今日中にね』なんて無心するメッセージを送ってきたくらいだし」
「ハァ!? お前、あの女に十万もよこせ言われとったんか。ムチャクチャやないか」
「だろ? だから、あの恐ろしい浪費癖が直る見込みはないだろうな、とは思ってたんだけどね。で、未玲はそっちで何やらかしたんだ?」
「それがあの女よ、どこぞのチンピラと手ぇ組んでな。おのれが引っ掛けた男を騙して、強請 りをやっとったらしいわ。要するに美人局 やな」
「つ、美人局? あいつ、金を手に入れるために、そこまで堕落 しちまったのか……」
ミオに聞かせないよう小声で問い確かめたが、どうやら美人局で逮捕された事件が、今日の夕刊に載せる記事として採用され、未玲とチンピラは、大阪の地方紙にて、顔写真付きで実名報道されてしまったらしい。
佐藤の友達である記者が、たまたま別件で府警を訪れた際に掴んだ情報だそうで、当該事件の会見を開く予定時間の前に、特ダネとして紙面に載せた。いわゆる「すっぱ抜き」というやつだ。
結果として他紙を出し抜いたわけだから、佐藤の友達は大手柄を立てた事になる。その大手柄を自慢したくて佐藤にリークした際、未玲の顔写真も添えてきたので、ピンと来て俺に連絡してきたとの事だった。
美人局とは、自分の彼氏や旦那、あるいは金のためにつるんだ男をパートナーとしてコンビを組み、恐喝 する事でお金を取る。言うまでもないが、まごうことなき犯罪だ。
そのやり口を分かりやすく説明すると、美人局を企んだ二人組は、まず女性が自分に彼氏や旦那がいないと偽った上で男を引っ掛け、パートナーが潜む部屋へと連れ込む。
で、その部屋にていい雰囲気になりかけたところで、パートナーであるコワモテの男が登場し、「おんどりゃ、なに人の女に手ぇ出してけつかんねん。慰謝料払わんかい!」などと凄んで怖がらせ、騙された男から金を脅し取るのである。
これは刑法二百四十九条の恐喝罪に当たる行為なので、警察に特定され、その恐喝を現認されたら、逮捕はまぬがれない。
余談だが、脅し取るお金の名称である「慰謝料」を、「解決金」と呼ぶケースもあるらしい。……もっとも、呼び方をどう変えたところで、詐欺を働き恐喝で人を脅し、お金を分捕った事実に揺るぎはないのだから、どちらにしても結局捕まる。
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