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52.夏の終わりに(27)

 美人局を完遂させるにあたり、自分には彼氏も旦那もいない、という(てい)で男性を騙して、部屋へと連れ込んだ未玲は詐欺(さぎ)罪(刑法二百四十六条)で起訴されるのはほぼ間違いない。つまり、あの女は刑事裁判の被告として裁かれる、ということだ。  詐欺罪として起訴するためには、定められた五つの条件を満たす必要があるそうだが、美人局は全てに該当するので、有罪はまぬがれないだろう。  万が一、美人局が未遂に終わったとしても、詐欺未遂という罪になる(刑法二百五十条)。未玲とチンピラは現場を押さえられての逮捕らしいから、その件のみは恐喝ともども未遂として処分されるだろう。未遂だけなら処罰は比較的軽い。最長でも懲役五年以下で済むそうだが、執行猶予(しっこうゆうよ)がつくか否かが争点になる。  刑の執行を猶予してもらうためには、成立・未遂を問わず、やれ初犯だったとか、家族などの情状証人が法廷に立ってくれたとか、被害者と示談を済ませ、犯罪の件数を減らすくらいしか思いつかない。  反省の意を示して謝罪する手もあるにはあるが、それで裁判官の判決がどう転ぶかは、被告となる二人次第による。「反省してまーす」などという、ナメた態度でも取ろうものなら、いかに法に従って裁きを下す裁判官でもカチンとくるから逆効果だ。  俺はそもそも弁護士や検察官ではないし、裁判官ですらない。裁判所に赴いて傍聴したり、法廷に立った経験もないから、この程度の知識でしかモノを語る事ができないのだが、何しろ計画性をもって犯した罪であるゆえ、いくら反省の態度を示したところで、既に手遅れのような気もする。 「ビレーだかミレーだか知らんけど、つくづくアホな女やで。止めときゃええのに、さんざん男を騙して金を(むさぼ)って、味をしめてもうたんやろ。ほんであの女、よりにもよって巡回中やった私服のポリさんを引っ掛けよってな」 「え。まさかの私服警官を?」 「せや。そのポリさんは部屋へついて行くまでに、こっそり本部に連絡してな。駆けつけた十数人の応援に逃げ道を封鎖されて、何も知らんチンピラが(すご)んできた瞬間、現行犯で縄かけられよったっちゅう話や」 「な、何てこった。あいつと別れた後、あいつの友達から『未玲は彼氏よりも金が好き』って陰口を叩かれてたのは聞いてたけど、あろうことか、犯罪に手を染めてただなんて……」  これは人づてだが、お金に対して、異常なまでの執着心を抱く原動力となったのは、懐に入ったお金を無駄遣いする事で得られる、快楽のためだったと伝え聞いた事がある。その快楽を享受(きょうじゅ)し続けたいがために、あの女は罪を犯すという、最悪の手段を選んでしまったのだろう。 「今はマッチングアプリがあるよってな、そっちでのやり口は表に出にくいらしいわ。ただ、あの女はチンピラの差し金か何か知らんが、わざわざ街中に出向きよったから、集まった被害届の情報から面が割れてな。ポリさんが私服警官をよこした時点で、縄かけられるんも時間の問題やったんやて」 「そんな行動力があるなら、真面目に働けば良かったのに、未玲はそれすら拒絶したのか。それで、未玲と組んだチンピラは、の?」 「いや、どこの誰からも(さかずき)はもろうてへん。さっき言うた友達の記者から聞いた話やけどな、そのチンピラは一時期、その筋の人に付いてカバン持ちをやっとったけど、引ったくりにカバン取られて、盃どころか鉄拳制裁を食ろうたっちゅう話やねん」

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