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52.夏の終わりに(33)
「だけじゃなかろうよ。おおかた、手を変え品を替えして、あちこちで詐欺を働いたんじゃないのか? 美人局で金を稼ごうと思うような女だから、家出少女を装うとか、闇金で借りてトンズラするとか、やり口は山ほどあるだろ」
「何よお父さん、家出少女って」
未玲は俺と同い年なので、今の年齢は二十七歳だ。そんな大人の女性が、家出はともかく、「少女」だとはさすがに言えたもんじゃない。そもそも童顔じゃなかったし。
見た目が大人である以上、シャッターの閉まった深夜の繁華街で座り込んでいたとしても、せいぜい職務質問の的になるのが関の山だ。そう思ったからこそ、お袋は、その珍妙な発想に疑問符を浮かべたのだろう。
闇金からトンズラするのはまず無理だ。債務者の個人情報を共有するネットワークを独自に構築していたら、どこへ逃げようが、その情報に基づいて身柄を押さえられるかも知れないんだし。
「ものの例えだよ。少女だろうが大人だろうが、男がその気になったら、家に連れ込むなんて普通にやるだろ」
「やめてくれよ親父、ミオがいる前で……」
「あっと、すまんすまん。じゃあ、賭博 なんかどうだ?」
「賭博? よく分からないけど、未玲が博奕 を打って稼いでいたって話かい?」
「まさか。バカ正直に金をつぎ込んで、博奕で勝ち続けるのは無理ってもんだ。そもそも博奕ってのは、胴元に儲けがないと成立しないシノギなんだからな」
やれ胴元だとかシノギだとか、かつての極道が使いそうな言葉をやたら並べて、冗談抜きで教育に悪い。けど、親父が言った事の本質は何ら間違っていない。
胴元の資金が枯渇するまで客が儲けてしまったら、シノギにならない。客はともかく、賭場を開いた胴元までが運を天に任せているようでは、廃業に陥るのも時間の問題だ。
なので、胴元がメシを食えるほど稼いでいくためには、『場所代』と称した参加費のほか、客の賭け金を適度に吸い取る細工が必要になる。
「しのぎ? なぁにそれー」
ほら、案の定だよ。好奇心が強いミオは、まだ見聞きした事のない、「シノギ」という不可解なワードの意味を問うてくるんだから。それ自体はごく自然な反応だし、ミオをたしなめるのも筋が違う。何もかも、親父の言葉選びが悪いせいなんだから。
ただ、その言葉の意味を教えたところでなぁ。カタギの人間がヒョイと口に出すような性質じゃないもんで、俺も今ひとつ気が乗らない。
「仕事って意味だよ。稼業とか、稼ぎそのものでもあるかな? ただ、これは怖い人たちの中で交わされる言葉だから、俺たちは絶対に使わないようにしような」
「はーい」
ミオはいつも通り、元気よく手を上げて約束を守る意思を示した。愛する彼氏との決め事だから、きっとこの子は間違いを起こさないだろう。美玲のせいでとんだ事態にはなったが、こうしてミオが明るく振る舞ってくれるおかげで、俺も何とか正気でいられる。
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