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52.夏の終わりに(35)

 男の色香って何だろうな。筋肉美みたいな分野? あるいは、ミオやレニィ君、ユニィ君のようなショタっ娘ちゃん? 後者なら、同年代の女の子よりも、男が気を惹かれる程の美貌が備わっているから、説得力はあるよな。  特にレニィ君はおしとやかだし、控えめで彼氏を立てるタイプだった。あの子が、恋する乙女のような眼差しで俺を見つめていた時は、いつ告白されるのかと、ドキドキ、ハラハラしたものだ。  特に、カラオケ帰りで俺たちの前を歩いていた時の、ブロンドヘアから覗く、あのの色っぽさときたら……。 「んむ? お兄ちゃん、今なにを考えてたの?」 「え? いや別に。特段取り立てるような事じゃ――」 「ほんとぉ? お兄ちゃん、ボクじゃない男の子のことを考えちゃダメなんだからねー」 「は、はは、そりゃもう。何つっても、俺は一途だからな」  危ない危ない。何というカンの鋭さなのか。ちょっと物思いにふけっていただけ、という言い訳で何とか凌ぐ事はできたが、まるで心の中を覗いたかのように当てに来る。これが子猫系ショタっ娘ちゃんが持つ、特有の洞察力なのだろうか。  というかミオは、自分以外で、他にいる子の事を考えちゃダメって言ってたけど、その対象が男の子限定なのは、果たしてどういう意味だろう。女の子ならOKだとか?  ……いや、さすがにそのセンはないな。今まさに家族会議が進行している理由を作ったのは、誰あろう元カノなのだ。  その事情を(かんが)みた上で、俺に女運が無い事を悟ったミオは、自分以外のショタっ娘と仲良くしちゃダメ、という釘を刺したのかも知れない。  何しろ、ミオは何かと浮気を疑ったり、やきもちを焼く子だからな。俺はそんないじらしさも含めて、ミオの事が好きなんだけど。  で、話を戻すが、親父は「とある遊戯」という風に表現をぼかしたものの、大人ならまず想像はつくと思う。その運営会社や店舗は、厳密にはギャンブルではない、という(てい)で営業が認められている。だからこそ、あえて賭博という言葉を用いなかったんだろう。 「袖の下ねえ。それってつまり、賄賂(わいろ)って事だろ」 「あんた、難しい言葉を使うわね。わたしも詳しい仕組みは知らないけど、昔の遊戯台では、球の補給を、台の裏にいるおばちゃんが手作業でやっていたらしいのよ」  もう少し掘り下げた話をすると、客が球をつぎ込むのも手作業、打ち出すのもハンドルじゃなく、レバーで一個ずつ弾き出すのでやっぱり手作業。おまけに椅子すらないもんだから、当時の客は立ったまま遊んでいたそうだ。 「あ! レバーなら知ってるよ。レバーブローとかよく聞くでしょ」 「ええ……え? レバーブロー!? 義弘、あんた、普段なにを教えてるのよ?」 「ま、待った待った! 俺は知らないよ。たぶんボクシングのニュースで、ちょろっと言及した程度の言葉が耳に残ったんだろ」 「ほんとでしょうね? ミオちゃんに変な言葉を吹き込んだら、お母さんは許さないわよ」 「あのさぁ、ちっとは冷静になってくれよ。どこの里親が、幼い里子に『レバーブローはこう打つんだ』なんて吹き込むのさ。最も格闘技から縁遠い子なのに」  という、俺とお袋の応酬を不思議そうに見ていたミオは、俺たちが何の話をしているのか、今ひとつ理解が追いついていないようだ。  親父は親父で、その応酬には目もくれず、酒のアテにつまむ予定だったサキイカを、ミオに勧めていた。自分から話題を振ったくせに、まったくお気楽なもんだよ。

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