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52.夏の終わりに(36)
お袋への弁明で、ひとまずレバーブローの誤解を解く事はできた。元々、ミオはこんな感じで横文字を呼び間違えたり、覚え間違いを起こす事がよくある。
俗に言うところの〝天然〟に分類するタイプなのだが、二人っきりの場合なら、さほど問題にならない。穏やかでない言葉を覚えて欲しくないのはお袋と同じだから分かるんだけど、テレビやクラスメートからあれこれ仕入れて来るからなぁ。
聞かれた言葉の意味を説明するのは問題ないんだが、教えられた言葉を濫用するか否かは、結局ミオの良心や判断力に任せるしかない。
「で、台の裏でおばちゃんがいるのは分かったけどさ。今はそんな時代じゃないんだろ? 未玲にとっては関係ない話だし」
「そうだな。今は不正ができないようにあれこれ対策してるし、色香で店員やら店長やらを釣れたとしても、他の客にサクラを疑われるだけだし、長続きはしねぇだろうな」
親父、また今度はサクラとか名前出すじゃん。ショタっ娘が覚えなくていい単語をホイホイ出さないでくれよ。
「ねぇねぇお兄ちゃん。ずっと考えてたんだけど、バクチってなぁに? 花火のお話?」
ホッ。さすがにサクラは花の名前と判断したようだが、この質問を聞けば分かるように、まだ十歳のショタっ娘ちゃんは、賭博や博奕といった、金銭を賭けて勝つか負けるかの勝負をする世界に全く馴染みがないわけだ。当たり前の事だけど。
だからこそ、この子の養育里親という立場である俺としては、博奕の仕組みや誰がどこで賭博をさせたのか、キナ臭い話とか俗っぽい単語なんかも、あんまり覚えてほしくないんだよなぁ。
「それは爆竹 じゃないかな。博奕ってのは要するに、賭け事なんだよ。例えばサイコロを振ってさ、何の目が出るかにお金を賭けて、的中したら倍になって戻ってくる……みたいなね」
「ふーん。それってやっちゃダメなこと?」
「例外なくダメだな。たとえ一円でも、サイコロ遊びにお金を賭けたらお巡りさんに捕まっちゃうからね」
「そうなんだ。お巡りさんに怒られるようなこと、しちゃダメだよね」
ああ、なんて物分かりの良い、純粋なショタっ娘ちゃんなんだ。ダメな事は絶対しちゃダメ。施設で受けた教育の成果か、言いつけを守っているこの子は、決して不良や遊び人にはならないだろう。
「うん、ミオは聞き分けの良い子だね。ただ、競馬とか競艇、あとは競輪みたいに、正式な認可を受けたものは怒られないんだよ」
「ニンカ?」
「そう、認可。要するに、国が運営するそれぞれの組織からお許しをもらった賭け事なんだね。だから競馬、競艇、競輪はテレビや小型飛行機で宣伝を打てるのさ」
「ケイバ? キョウーテイ? 難しい言葉がいっぱいだねー」
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