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52.夏の終わりに(40)

「分かったよ。領収書類はあっちに帰り次第、かき集めておくから。もっとも、取引履歴の方は盆休み明けになるだろうけどね」 「ああ、そうしなさい。取り調べであの女を勾留し続けられる期間が長くは持たない以上、警察も急ぎ足になるだろうからな」 「ふぅ、やれやれ。やっと忘れられると思ったのに、お次は証拠集めで手間をかけさせられるのか。実りのない作業ばかりで嫌になるよ」  そんな俺の辟易としたような顔を目にしたミオは、椅子を寄せ動かすと、爽やかなブルーのショートヘアに包まれた頭を、そっと俺の腕に預けてきた。  はぁ、癒やされるなぁ。ミオはこうやって、「ボクがいるよ」って伝えてくれているんだ。  手伝える事なら何でもやる。里子の枠を超え、俺の現・彼女として寄り添い続け、無償の愛を捧げ続けてきてくれた、ミオだからこその決意がそこにあった。 「ふふ。良かったわね、義弘。ミオちゃんが彼女でいてくれて」 「ん? うん。そうだね。再会するまで四年も待たせちゃったけど、こうして今、俺たちが恋人同士でいられるのは、きっと運命だったんだと思うよ」 「何だ、義弘。家族会議で惚気(のろ)けやがって。まぁ、やる事は決まったから、会議もお開きでいいがな」  ぬいぐるみを抱っこしていたミオは、あのアバ……美玲への対策が定まった事で不安が取り除けたからか、俺の腕に頭をくっつけたまま、スリスリして甘え続けている。  こんなに和やかな家族会議になったのも、うちの子猫ちゃんがいてくれたからに相違ない。ああ、が早く来ないかなぁ。射的で当てたコスプレセットで見た目も子猫ちゃんになったミオに、目一杯甘えられたいよ。 「あら、もう十時なの? 時間が経つのは早いわねぇ」  各々が麦茶飲み干し、空になったグラスを片付けているさなか、時計に目が行ったお袋が、真っ先に現在時刻を告げた。 「もう花火で遊ぶ時間じゃないな。いくらお隣さんとは離れているとはいえ、夜の十時じゃあね」 「義弘。昨日遊んだ分も含めて持って帰れよ。向こうでも花火はできるんだろ?」 「まぁ。一応、高い柵があって落っこちる心配もないから、マンションの屋上で遊んで良いってお許しはあるけど。ロケット花火みたいに、飛んでいく系のはさすがに無理だよ」  ミオがうんうんと頷く。昨日の話を聞いて、どこぞへ飛び去ったロケット花火の捜索ほど面倒なものはない。手持ち花火の類で遊ぶ以上は、遊んだ人にこそ片付ける責任がある。 「そうか。だったら、吹っ飛んでいく系の花火は袋にまとめて突っ込んでおきなさい。おれらが水に漬けて処分するから」 「分かった。手間かけて悪いけど頼むよ」 「ありがとう、お祖父ちゃん!」  かわいい孫に満面の笑みを向けられた親父は、酒に酔ったわけでもないのに、顔を真っ赤にして謙遜(けんそん)している。いくら頭の中では男の子だと理解していても、ミオというショタっ娘ちゃんだけが持つ、独特な魅力に心を奪われてしまったんだろう。ただお礼を言われただけなのにな。

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