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52.夏の終わりに(41)

 じゃあ、もしかして、親父もショタコンなのか? だとしたら、息子の俺が遺伝によってショタコンになるのは必定だったわけで、即ち俺はノーマル……いや、もうそんな次元じゃないな。  両親の前でミオと結婚するって打ち明けた以上、今更おためごかしでその場しのぎをしたって意味がない。最も近い親族である両親が了承してくれたのだから、ショタコンならショタコンらしく、堂々とイチャつきゃいいのだ。 「ミオ。明日は朝イチで帰るから、早めに寝ようか」 「うん。やることが全部終わったら寝るー」 「やること?」  ミオが口にした「やること」とは何なのかを知らないお袋が、俺とミオを交互に見ながら聞き返してきた。 「そう、やること。ミオが夏休みの間は、学校から貰った日記帳に毎日の出来事を書いてから寝る決まりになってるんだよ」 「あら。ミオちゃんは偉いわねぇ。義弘なんて、気が乗らない時はサボって寝てたのにね」 「サボったは語弊(ごへい)がありますねぇ。何しろこんな田舎だもんよ。川遊びは危ないから禁止、お盆の間は足を引っ張られるから海水浴も禁止、捕まえたセミを家に持ち帰ったら鳴き声がうるさいから、やっぱり禁止……」 「セミってそんなに大きな声で鳴くの?」  そう尋ねるミオは、施設の行事で何度か遠足には出かけているものの、いち個体としてのセミに接近して、その鳴き声を耳にする機会はなかったようだ。 「そりゃもう。正確には、セミのお腹にある筋肉を使って音を出すから、口で鳴くわけじゃないんだけどね。虫かごに入ったツクツクボウシがいつも通りに鳴かないでジージー言うから、セミも緊急事態だと思ってるんだろうな」 「そうなんだ。じゃあ、他のセミも虫かごの中だったらジージー鳴くの?」 「たぶん。俺も全種類捕まえた事はないから、正直分からないんだ。特に、ヒグラシは夕方にしか鳴かないだろ? そこまで待って捕りに行くのもなぁ、って考えちゃうわけよ」 「なるほどー。ボク、虫捕りをやったことないから、そういうお話が聞けるのってすごく勉強になるよ!」  今になって思い返すと、何で俺らは子供時代、虫捕りに熱中してたんだろうな。セミの成虫は寿命が短いから、気の毒な事をしたという反省しか残らない。  だからといって、遊びたい盛りの子供たちに虫捕りすな! なんて言える立場でもない。昆虫が迎えた寿命に面して、生き続ける事が、どれほどに大変なのかを学ぶきっかけにもなるのだから。  難しい問題だよ。じゃあ昆虫たちは、その学びの犠牲にしかなれないのか? と問われたら、俺はきっと正解を出せないと思う。昆虫記で有名なファーブルは、その生涯の中で、何を思って昆虫たちの生態を研究したんだろうな。

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