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53.悪女の味方(3)
「なぁ佐藤。和菓子の脂質がどーたらこーたらってのは、アキちゃんから聞いた話なのか?」
「ん? いや、アキちゃんやのうて、他の子が昔にな……」
言葉に詰まった佐藤は、突然肩を落としたかと思うと、浮かない顔で、おやつの破れ饅頭を手のひらで転がし始めた。
「何だよ、やけに歯切れが悪いな。もしかして、アキちゃんとは付き合えなかったのか?」
「ちゃうねん。アキちゃんは慎重派なのか何なのか分からへんけど、オレが帰省終わりで告白したら、『もう少し、友達付き合いのままでいよう』って言われてもうてな」
「はぁ。それがショックだったって話?」
「ショックもショックやがな。海浜公園の近くにある、ナンが食い放題のインド料理店で晩飯を奢 って、そのまま二人っきりで公園に行ってよ。ええムードになった! 思うて告ったら、さっきの言葉が返ってきたんやで?」
「お前の言う『ええムード』は知らないけど、要するにお前は、アキちゃんと二人でインド料理店に行って、おかわり自由なナンを腹いっぱい食わせた事だし、次に寄った静かな夜の海浜公園でも良いムードになった……と思い込んで、今なら告白が成功する! と見積もったわけか」
俺の推理がよほど的中していたのか、ヤケになった佐藤はカッと目を開き、破れ饅頭を丸ごと口に放り込むと、ろくに咀嚼 もせず、緑茶で一気に流し込んでしまった。
そしゃく
危ない事する奴だなぁ、ノドに詰まったらどうするんだ? そもそも、アキちゃんから色よい返事がもらえなかったのは、その破れ饅頭のせいじゃないだろうに。
ちなみに、佐藤がアキちゃんと訪れた「海浜公園」は、おそらく、俺とミオがイカ料理を食べに行った後に寄った、市営のデートスポットの事だ。あの海浜公園は敷地内に有名どころの飲食店が多数出店しているので、年中無休で開放できるほどに儲かっているのだろう。
園内は職員さんや警備員さんが常に巡回していて、治安の良さもお墨付きだ。食後、海浜公園に寄ってデートを続け、ベンチで体を寄せ合う事で、俺とミオの愛は深まった。うちの甘えんぼうな子猫ちゃんも、海の向こうにある養鶏場を照らす電球がキレイだと言って、うっとりしてたな。
「……ネパールやったんや」
「は? ネパール? 何の話だ?」
「アキちゃんを連れて行ったインド料理店は、ネパール人が経営しとった言うてんねん!」
やや自暴自棄な佐藤が声を張り上げた事で、他の社員たちからの視線を一斉に集めてしまった。そりゃ突然、コテコテの関西弁でネパールがどうやこうやとわめき出したら、注目を浴びるのも無理はないんだけれど。
「ちょ、ちょっと落ち着けよ、佐藤。そんなに目をむいてまで、わめき立てる内容じゃないだろ」
「何やて!? こっちは騙されとるんやで。言わば被害者の立場やろがよ」
「騙された? もしかしてお前、インド料理店で料理を作るコックさんがネパール人だったから、アキちゃんが心変わりしたとでも思ってんのか?」
「ハァ? 他に何があるねんな」
「あのなぁ佐藤、お前もたいがい女心が分かってないじゃないか。そのインド料理店を誰が切り盛りしてようが、肝心のメシがうまいなら、作った人の国籍なんてどこでもいいじゃないかよ」
「日本人でもか?」
「日本人でもだよ。例えば、お前がアキちゃんと行った高級イタリア料理店の経営者とシェフは、そもそもイタリア人じゃなかったんだろ?」
「う。た、確かにその通りや」
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