682 / 834

53.悪女の味方(4)

 いかにも盲点を突かれたような驚き方をしているが、もしかしてこいつは、外国料理店の経営者とシェフは、同じ国の人でなきゃダメだとでも思っていたのか?  いや、さすがにそのセンは無いよな。たぶん、アキちゃんに、いかにも脈がないような返答を聞かされた理由を探しているんだろう。  そこで目をつけたのがインド料理店の件だったようだが、はるばるネパールから来た人らにとっては、とばっちりもいいところだ。  追い打ちをかけるつもりはないので黙っていたが、ネパールはインドの北に隣接していて、インドへの国境を跨ぐにあたり、特に厳しい入国審査はないらしい。  ゆえに、真面目で勤勉だと伝わるネパール人は、インドへ訪れてインド料理を学び、諸外国で飯屋を構え、本場の料理を食べさせてくれるのだ。  インド料理店の経営者にネパール人が多い理由は以上の通りだが、決してインド人がぐうたらな性格だというわけではない。ネパール人がインド料理のお店を開くのは、別に珍しい事じゃないのよ、というだけの話である。 「昔の俺みたいに『友達のままでいましょ』って、体よく断られたわけじゃないだろ。お前の人間性やら何やらを見定めたくて、もう少し猶予(ゆうよ)が欲しいと伝えたんじゃないか?」 「猶予……か。オレが急かしすぎたんかな」 「たぶんな。もしお前をフるつもりなら、もっと突き放すような事を言うだろ。未玲(みれい)みたいにさ」  あ! まただ。また俺は、あの性悪女を引き合いに出してしまった。あの苦々しい一年間を忘れようと思っているのに、自らの経験を犠牲にしてまで同僚を慰めている。何をやってんだかな。 「お? そういや盆休みの時に、お前の元カノが美人局で捕まったっちゅう速報を電話で教えたんやったな。あれ、どうなったんや?」 「どうもこうも。美人局だけなら大阪で完結してた話なんだけど、余罪が各地でわんさか出てきたから、そのつど他の罪状で逮捕されて、未だ勾留中なんだってさ」 「えぇ!? それ、どこの情報なん? あれ以来、しばらくテレビやら新聞やらをチェックしとったけど、全く見聞きでけへんかったで」 「だろうな。余罪の数なんて、俺も府警からの電話で初めて知ったんだし。その上で口止めされたから、ほんとは部外者に話しちゃダメなんだけどね、これ」 「なるほど、府警から直で電話が来とったんか。すまんな、いらん詮索してもうて」 「気にしなくていいよ。いち早く報せてくれたお前が謝るのは筋が違うだろ。ただ、この話はお前と権藤(ごんどう)課長しか知らないから、くれぐれも内密に――」 「へ? 権藤課長に? それって、元カノの事件を秋吉部長やのうて、課長に〝報連相(ほうれんそう)〟したっちゅうことか?」 「そうだよ。課長は直属の上司だし。言っちゃ悪いけど、秋吉部長はヘタレのおっさんじゃん。そんな人に報連相してもな」  一応補足しておくと、先ほど俺らが使った「報連相」という言葉は、報告・連絡・相談の略称で、会社という組織で働く以上、上司や同僚、取引先、部下にでさえも、この三つを欠かしてはならない。ヘタレのおっさんを除いては。

ともだちにシェアしよう!