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53.悪女の味方(11)
「で? お前の親御さんは何て言うてたんや?」
「お袋のスマホにミオの写真を送ったら、あっさり認めてくれたよ。親父は終始メロメロで、お袋も『この子の顔に邪気 はない』つって、太鼓判を押してくれたんだ」
「そらまた、心の広い親御さんやな。まぁ、お前っちゅう子供が独り立ちできるまで育てて来はったご両親やし、ミオちゃんが心に悪意を秘めとるかどうかは、感覚で分かるんやろ」
「だろうな。俺が散々、あの元カノに振り回されたのも知ってるから。尚更にね」
「おっ。美人局 ババアの事やな」
ババアって。未玲の肩を持つわけじゃないけど、俺と同い年だぞ。たぶん佐藤の基準では、女性が何か罪を犯したら、全員ババアという蔑称 で呼ぶんだろうけど。
「お前に速報で教えた俺が言うのも何やけど、あの女とは裁判所で決着つけなアカンのか?」
「いや……俺は訴えないよ。お金やら高級ブランド品をタカられた証拠は揃ってるけど、向こうに『対価は提供した』って主張されたら、決着が長引くだけだし」
「対価? ああ、そういう事かいな。物々交換やないけど、向こうが提供したって言い張る『対価の内容』が争点になるっちゅう話やろ」
「うん。今さら、対価の定義を改めて争ってもな。どうせ支払い能力がないんなら、いっその事、スッパリと忘れたいんだよ」
「さよけ。まぁお前がそう決めたんなら、誰も止めへんやろ。ただ、あっちがどう出るんか分からん以上は、気ぃ抜かんようにな」
「ん? 訴訟費用を持ってくれってせびられるみたいな話か?」
「だけで済めばええけど。場合によっては獄中から『結婚してくれ』とか言うてきそうやん?」
突拍子 もない発想だが、あの女ならやりかねないのがまた悲しい。過去に付き合っていた時の傾向でセリフを考えるなら、たぶんこうだ。
「義弘。あんたとなら消去法で結婚してやってもいいけど、面会はいらないから毎月仕送りしなさいよね」
勝手に予想しておいて何だけど、ほんとにこう言いそうだからイラッとする。何で俺が、上から目線で「結婚してやってもいい」ってお許しをもらわなくちゃいけないんだ? 相変わらず恩着せがましい女だよ。
言葉遣いの良し悪しはこの際どうでもいい。万が一プロポーズされたところで、その申し出に裏があるのは明々白々 である以上、決して乗ってはいけない。
何より今の俺は、十七歳年下のミオと恋人同士のお付き合いをしている。いくらおねだりに負けたとは言え、結婚の約束まで交わしたからには、その責任を全 うするのが彼氏の役目だ。
未玲が美人だった事を否定はしないけど、その美人をさらに上回るのがミオだし、何より彼女として俺を慕ってくれる時点で、既に決着はついている。
ミオの性別が男の子だなんて、しょせん誤差の範囲だから。「かわいいは正義」である以上、性別で区切る事は何ら意味を成さないのだ。
よって、ミオやレニィ君、ユニィ君を代表とするショタっ娘ちゃんたちは、〝かわいさ〟という部門では他の追随を許していないし、誰かの後塵 を拝してもいない。
その事実を身をもって知っているのは、ミオの里親になった俺自身なので、今さら疑う余地はないだろう。そんなミオから今しがた送られてきた、本日三度目となるメッセージは、次のような内容であった。
【まりじしよ! みお】
今度は名前の後にハートマークが付属していた。「まりじ」とは何か? なんて難しく考えるする必要はなく、あの子は単純に、結婚の英訳である「マリッジ」を用いただけなのだ。
お泊まり会の子らに俺たちの関係がバレないよう、結婚という直接的な言葉こそ避けたものの、今度は小さい「つ」の打ち方が分からなかったらしい。
離れていても、こうしてメッセージを交わせるのはスマートフォンの利点なのだが、文面までもかわい過ぎるがあまり、思わずほころんだ頬を佐藤に見られちゃうんじゃないかと思うと、実にハラハラするな。
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