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54.完全決着(17)

 とにかく。  ミオが体調不良で早退した理由は、炎天下での走り込みで鉄分を失い、水分の補給すら許されなかったが為に引き起こした貧血である。ただ、医院で行った血液検査では特に異常が見られなかったゆえ、薬の服用までには至らずに済んでいる。  本来なら、このまま真っ直ぐ、晩ご飯のおかずを仕入れるために商店街へ寄るのだが、その前にやる事がある。ミオが早退に至るまでの顛末(てんまつ)や、現在の体調に何ら問題は無い事を、まずは権藤課長に報告しなければ。  日の入りが徐々に進み始めた頃、俺とミオは近所の公園にある屋根付きベンチに腰掛け、電話を課長に繋いでもらった。 「お疲れ様です、課長。今日は、二度もお騒がせしてすみませんでした。まさか、知らぬ間にあんな大問題が起きていたなんて、全く予想だにしなかったもので……」 「二度だと? 騒ぎを起こしたのは、弁護士への雑な偽装で馬脚を現した青二才だけだろう。何度も言うが、子供に一切の非が無い以上、その子も保護者であるお前も、私や会社に謝る必要はどこにも無い」 「す、すみません。心得を間違いました」 「お前は里親の使命で、自分の子供を救ったんだ。そのために早退しようが欠勤しようが、正しく報告さえすれば、いくらでも手の打ちようはある。会社とは、そういう組織だろう?」 「はい。仰る通りです」 「で、だ。お前の子が通う学校は明日から、マスコミの張り付きが本格的になるだろう。全国紙の社会部デスクから聞いた話だが、事件当時に録られた音声の一部と、時系列や張本人らの発言をまとめたメールが届いたそうだ。言わば〝タレコミ〟というやつだな」 「ええっ! 一体いつの間に!?」  あまりの驚きに、ついつい大声が出てしまった。隣で棒付きキャンディーをペロペロしていたミオが、跳ね上がりそうな勢いで全身を大きく震わせ、何事かとばかりに俺の顔を見上げている。  ちなみに、この子が今ペロペロしているキャンディーは、採血を頑張ったご褒美(ほうび)という名目で、看護師のおばさんから貰ったお菓子である。  ごめんよミオ。お互い大きな音が苦手なのに、俺が取り乱しちゃダメだよな。 「今は教育班と医療班の記者を派遣して、各所で裏取りをやっているところらしいが、状況によっては、紙面に大きく載るのは避けられまい」 「状況、ですか? それってもしかして、子供たちの命が……」 「ああ、その状況だ。無事だった子らの親からもコメントを集めているそうだが、そっちは捗々(はかばか)しくないと聞いている。節操のない話であるとは言え、取材こそ新聞記者の仕事だからな」  学校側が、ミオが在籍するクラスの保護者に向け、近日中に説明会を開く予定だというのは聞いていた。が、そこにマスコミが同席するとなると、また面倒な事になりそうだ。

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