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54.完全決着(18)
「とにかく。ミオ君の無事は朗報だったが、念のために明日も休ませろ。保護者であるお前も一緒にな」
「え? 僕もですか?」
「そうだ。『僕も』一緒に休め。ミオ君が、明日も変わらず元気であるのかどうかは誰にも断言できん。どんな名医でもな。だからこその休暇だと思えばいい」
まさか。うちのミオに限って! と、思いたくなるが、課長の言うことは何ら間違っていない。
たとえ今日は健康であっても、翌日に急性心不全や脳出血を起こしたら、人はほぼ確実に死ぬ。それが医学的に言うところの「突然死」である。
あくまでモノの例えだから、ミオがそうなるわけではない。とはいえ、明日にも体調不良を訴えない保証もない。ゆえに、課長はもう一日、付きっきりでミオの側にいてやれと言ってくれているんだ。
「どの道、教員不在でロクな授業が受けられんのなら、最も安全な場所で自習させた方がいいだろう」
「すみま、いえ、ありがとうございます。それでは明日も、お言葉に甘えさせていただきます」
スマートフォンを耳に当てたまま、何度も頭を下げる俺がよほど珍妙に見えたのか、ミオの顔に笑みが戻っていた。
電話で現状の報告を終えた俺は、課長の厚意にあずかる形で、特例による休暇を取らせてもらう事にした。したのだが、業務の方は大丈夫なのだろうか。
書類の整理や外回りといった、俺がやるべき仕事は誰が代わりに担当するんだ? 大口の契約を取ったばかりの佐藤には、俺の分までを背負わせるわけにもいかないし。
それにしても不思議だな。どうして権藤課長は、大手新聞社のデスクと知り合いなんだろう。ただでさえ超人的な洞察力を持っているのに、人脈まで豊富だったら、いよいよ弱点 がなくなる。
「ふぅ。これで会社への報告は終わり、と」
「どしたの? ため息をついて。早く帰ったから怒られちゃったの?」
「いや、実はさ。学校での一件が、思ったよりも大事 になりそうだって聞かされてね」
「んん? 会社の人がそう言ってたの?」
首を傾げて聞き返してきた、ミオが抱く違和感はよく分かる。学校の関係者との通話ならまだしも、なぜ勤め先の上司が、この事件を知っているんだ? とまぁ、そんなところだろう。
「そう。俺もよく分からないんだけど、さっき電話で話した課長は、何でもお見通し! みたいなところが結構あるんだよ」
「もしかして超能力とか?」
「え? まさかぁー。夢を壊すような話になったら悪いけど、俺は超能力を見たことがないからな。たぶん違うと思うよ」
「そうなんだ。でも、施設の園長先生はテレビで超能力者を見たって言ってたよ。名前は何だったかなぁ。確か、『エドガーランボー』だったような」
実に惜しいんだけど、違う人物で覚えちゃってるな、この子。小説家の「エドガー・アラン・ポー」と、アクション映画の主役で有名な「ジョン・ランボー」がごっちゃになってる。
「んーと。園長先生が見た超能力者って、エドガー・ケイシーの事じゃないかな」
「あ! たぶんそんな名前だったような気がするー。そのケーシーって人は何をしたの?」
「さてな。『日本は一九九八年までに沈没する』と予言したって、そのくらいしか知らないけど。まぁご覧の通りだよね」
「……そだね」
ミオも何かを察したのだろう。エドガー・ケイシーと超能力について、これ以上深掘りして尋ねようとはしなかった。
言いたい事は他にもあるのだが、今はその人物について論じる時ではない。突然出張って来たジジイのせいで熱中症にかかり、病院に運ばれた子らの安否の方が気になる。
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