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54.完全決着(19)

「皆、大丈夫かなぁ。今日の体育は、ポートボールをして遊ぼうって言ってたのに、どうしてこうなっちゃったんだろ」  手を繋いだまま、うつむいてトボトボ歩くミオを見ていると、胸が締め付けられそうになる。大人のエゴに巻き込まれた子供たちが、どうしてここまで気に病まなきゃならないんだ。  ポートボールって遊びにどれだけ馴染みがあるのか分からないが、台の上に立った味方にバスケットボールくらいの球体を投げ、その味方が台を降りることなくキャッチできれば点が入る。  ボールをキャッチする人(一般的にゴールマンと呼ぶ)も含め、コートの中に配置する人数は一人ではないので、チームプレーに重きを置いた作戦を取らないとまず負ける。 「ボールを持った人が三ステップより多く走ると反則」みたいな、バスケットボールから着想を得たような部分はいくつかあるのだが、ポートボールにはドリブルという概念がない。  もともと、ポートボールはレクリエーションの一環として取り入れられた運動で、ルールも地域によって様々だ。他都道府県によっては、「ボール運びはドリブルしなきゃダメ」みたいな決まり事があるかも知れない。  ミオたちは、どんなルールに従って、ポートボールを遊ぶ予定だったんだろうな。 「……よし! それじゃあ、皆が元気に帰ってきたら、俺や保護者の人らと一緒に、ポートボールをして遊ぼうよ」 「え? お兄ちゃんたちと?」 「そう。ミオもクラスメートの子たちも、絶対に危ない目には遭わせないぜ。俺ら大人が見守り続けるからね。まぁ、平日はあれだけど、日曜日なら他の保護者さんも来られそうじゃん?」  という計画に現実味を覚えたようで、さっきまで曇っていたミオの表情が、(またた)く間に明るくなった。 「うんうん。日曜日は、お父さんたちのお仕事がお休みだから、ってことだよね」 「御名答。生徒と保護者を十人くらい集めて、クラスの代表として話を持ちかければ、要望は通ると思うんだ」  何しろミオたちの担任教諭は、本来ならポートボールで遊ぶはずの授業をフイにした挙げ句、いち民間人でしかないジジイを招き入れたという重大な過失を犯している。  その代替として、保護者たちが見守るという条件のもと、体育館やグラウンドが空になる日曜日に、心ゆくまでポートボールを遊ばせてあげようというのだ。  幸い、ミオたちが通う学校の校長は毅然(きぜん)としていて、担任教諭を追放する事にもためらわなかったそうだ。ゆえに俺は、このプランを不許可にする公算も低いと踏んでいるのである。  もっとも、そのプランが実現するのは、もう少し先の話になるだろう。今夜は学校による説明会が控えているため、ミオたちの担任教諭と、その恩師であったジジイの責任を追及するだけで終わるだろうから。  俺はミオの側にいてあげたいという理由で、説明会への参加は辞退した。ただ、どういう展開になるのかは容易に想像がつく。  学校側は誰が出るんだろう? 校長先生はもちろんとして、元凶である担任教諭と、教諭の恩師だった精神論ジジイも同席させるのだろうか?  ひと度追い出したジジイが行方をくらませようものなら、説明会の趣旨を欠く事になる。怒りのやり場を失った保護者たちが、出禁の処分だけで納得するのかどうか……。 「まぁ。とにかく、今日はうまい飯とデザートを食って元気つけよう。リクエ、もとい、食べたいものがあるなら聞くよ」 「んー? じゃあ、唐揚げ!」 「唐揚げか、いいねえ。お魚好きなミオにしては珍しいじゃん」 「えへへ、そうでしょ。お昼にカキフライを食べたから、夜は鶏さんがいいかなーって思ったの」 「なるほどな。じゃ、これからうまい唐揚げを探しに行くとしますか」 「うん!」  厳密に言うと、カキフライと唐揚げは、いずれも油で揚げる料理だ。ゆえに、揚げ物続きにはなる。  でも、せっかくミオが選んだものだし、植物性の油で作った唐揚げなら、胃もたれの心配も減るだろう。という事で、本日のメインディッシュは鶏の唐揚げに決まりだ。

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