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54.完全決着(24)

「ところで、俺にはどうやって電話してるんだ? 留置所にいる間は不可能だろ?」 「アンタがいい金ヅルだったように、わたしが望めば、何だって手に入るのよ。相手が留置所の職員であってもね」 「へぇ。つまり現在は、留置場の職員からスマホを失敬して喋っているんだ」 「くどいわね。何度も言わなきゃ理解できないの?」  はい。留置所の職員を巻き込んだ自爆、本日の一発目。 「人がわざわざ電話してあげてんのに、随分な応対じゃない? アンタはいつから、恩知らずのクズに成り下がったのかしらね」 「何を言っているのか、さっぱり分からないな。チンピラを雇って、ウチの会社へニセ弁護士をよこした張本人に、何の恩を感じろって?」 「わたしがチンピラを雇った? 知らない話ね」  いかにも平静を装っているかのような切り返しだが、露骨に変わった声色を耳にすれば、それが嘘だという事くらいは分かる。  ニセ弁護士の一件に、堂々と「知らない話」だとシラを切った理由は、要するに「入れ知恵をしたのは自分じゃない」だと断言できるだけの根拠があるからだろう。  大方、自分の担当弁護士に作戦を指示して、安くで仕事を請け負ったチンピラに、それらしい知識と金を持たせて脅しをかける(はら)だったんじゃないか? それとて立派な教唆犯(きょうさはん)だと思うんだけどな。 「しらばっくれても無駄だよ。彼はでっかい声で『オレはあの女にそそのかされただけ』って叫んでたから、黒幕が誰なのかを知っているはずだろ」 「だったら弁護士の仕業じゃない? わたしの担当弁護士は女性だから、そのチンピラの言う『あの女』が彼女なのは明白でしょ。アンタ、そんな事も説明しなきゃ分からないの?」  なるほど、そう来ましたか。確かに俺は、未玲の弁護を請け負った弁護士の名前や性別を知らない。ゆえに、未玲の言い分が事実だったら、あの柳っていうチンピラ共々、法に則って裁かれるのは弁護士になる。 「あの女」の正体がほんとに弁護士の事を指すのであれば、という条件付きだが。  私選なのか国選なのかはどうでもいいとして、法の専門家を務める弁護士のセンセイが、自らのキャリアに傷をつけるような雑な工作を施すだろうか?  どうやら、もう少し揺さぶってみる必要があるらしいな。 「じゃあ聞くけど、その弁護士さんは何て名前なんだい?」 「それ、今話す事かしら?」 「だったらいつ話すんだ? 弁解の余地を与えてもらっているのはどっちなのか、君は理解していないのかな」 「チッ。言うようになったじゃない。あの時は、わたしの従順なロボットだったくせに」 「俺だって、ただボンヤリと生きてきたわけじゃないからな。『士、別れて三日会わざれば、刮目(かつもく)して相対す』って故事の通りだよ」  故事の意味が理解できないのか、理解した上で言い返せないのかは分からないが、電話越しに伝わる程の大きな舌打ちを聞くに、未玲は相当イライラしているようだ。

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