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54.完全決着(26)

「そうやって挑発しても無駄だよ。弁護士の苗字すら知らないという(てい)で茶を濁さないと、ニセ弁護士をよこした黒幕が浮き彫りになる。だからこそ、あえてシラを切っているんだろ」 「は? 何でそう言い切れるのよ?」 「重ねた罪の数が多すぎるからさ。特に美人局が〝組織犯罪〟だと見なされたら、たちどころに〝接見禁止〟になるからね。こうなると、弁護士以外とは面会ができなくなる」 「知ったふうにクドクドと……だから何なのよ」 「まだ分からないのか? 君のために骨を折って、唯一接見に来てくれている弁護士の名前を忘れるなんて不可能だって言っているんだよ。『(とり)三足(みあし)』じゃあるまいし」 「ふん、相変わらず(さか)しくてイラつく男ね。まるで取り柄のない平凡なサラリーマンだったアンタが、何をどうやったら、そこまで手広く知識を仕入れられたわけ?」 「それを君に教えても意味ないだろ。金のためなら犯罪をも(いと)わない短絡的な人間が、探偵ごっこでもしているつもりかい?」  てな感じで、自分のセリフをアレンジしておちょくられたせいか、電話越しでも聞こえるくらい、ギシッという大きな音が鳴った。怒りに打ち震える未玲の、食いしばった歯がこすれた、要するに歯ぎしりってやつだ。  売り言葉に買い言葉とはいえ、こうしてやり込められるのが目的で電話してきたわけじゃないんだろうに、本来の目的を忘れちゃいないか? イリーガルな手段を用いてまで俺に伝えたい事があるのなら、サッサと話してくれりゃいいのに。 「もういいか? こっちは犯罪者の暇つぶしに付き合う余裕はないんだ。朝一番でニセ弁護士をよこして、俺に出廷させまいと企んだんだろうけど、本名で名刺を刷ってるんだから、やる事がいちいち雑なんだよ」 「そんなの、わたしの知るところじゃないわ。役立たずの弁護士による仕込みの自爆にまで、わたしが責任を取れると思って?」 「つまり、(くだん)のニセ弁護士は、君の担当弁護士による一存で仕込んだって話か?」 「そうよ。でないとわたしのせいになるでしょ」  この女、自分の罪が少しでも軽くなるのなら、自分の味方である弁護士ですら見放すのか。  どこまでも卑怯な奴だ。電話を切り次第、着信拒否に設定して、留置所のお偉いさんに明日の朝一番で告げ口してやる。 「ああ、そうかい。要するに『自分は潔白です』って聞いて欲しかったわけだ。もう何の関係もない、元カレの都合すらも考えずに」 「違うわよ。アンタに情状証人を頼もうと思って電話したの。家族親族に見放された以上、引き受けてくれる人は他にいないでしょ」 「……はぁ?」  耳を疑う発言だった。よりによって、未玲の裁判に出廷する情状証人の役目を俺に頼もうとしているのか?  全く意味が分からない。この性悪女は、一体どの立場で人にモノを頼んでいるんだろう。俺とて未玲と付き合っていた間は、何かにつけて稼ぎをむしり取られていた被害者なのに。  どの刑事裁判にしても例外なく、やむを得ず被害届を出さなかっただけの被害者が、わざわざ被告人のために出廷して「罪を軽くしてやってください」なんて懇願するわけがない。  孤立無援(こりつむえん)になったあまり、(わら)にもすがる気持ちで、元カレだった俺なら何とかしてくれるはず! だと当て込んだんだろう。破れかぶれもいいところだ。

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