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55.事後処理(3)
――という楽しかった思い出から一転。ミオの在籍するクラスが、しばらく学級閉鎖になるという連絡が回って来た。
昨日、担任教諭に招かれて来た、元・野球部監督のジイさんが、ミオやクラスメートの子らに、水分補給も許さない過酷な走り込みを課したのは既報の通り。
結果として、脱水症状や、それを起因とする熱中症にかかった子供たちが次々と病院に搬送され、未だ治療中である。かような現状で、まだ無事か否かの判別がつかない生徒だけを集めて、授業を進めるわけにはいかない。
入院患者数は、二十人以上にも及んだらしい。つまりあの精神論ジジイは、いちクラスの過半数に及ぶ子供たちを、医学よりも気合や根性にまかせて病院送りにしてしまったのだ。
流行り病であるインフルエンザの流行で、やむを得ず学級閉鎖……という例は過去、何度も耳にした。が、熱中症等々でこれはあまりにも酷い。適度な休憩と、こまめな水分補給さえ認めていれば、あれほどの惨事にはならなかっただろうに。
不幸中の幸い、というのも相応 しくないが、病院に運ばれたミオのクラスメートたちは、いずれも命に別条はなかったそうだ。
「ねぇお兄ちゃん。昨日の夜に先生とか、お父さんお母さんが集まって、学校でお話したんだよね?」
「うん。あの、いきなりやらされた走り込みに至るまで、何がどうなったのかを保護者の皆さんに説明しなきゃいけない、ってんでね。急遽 、説明会が開かれたんだ」
もっとも、あの怒声混じりで糾弾 する様を思い出すに、説明会というか、吊 し上げが占めるウェイトの方が大きかった。
「担任の先生も怒られちゃったの?」
朝食に用いた食器洗いを手伝いながら、不安げに尋ねるミオの手が、小刻みに震えている。
どう説明すべきかな。ミオとしては、あの担任教諭を信用していたんだろうが、その信用を裏切った結果があれだった以上、俺としては、庇 い立てする理由がない。
何しろ、うちのかわいいショタっ娘ちゃんも、スポーツ貧血に近い症状を起こし、早退を余儀 なくされている。つまり俺たちは被害者なのだ。
だったら尚更、「先生は転勤になった」とか、「他の仕事についた」なんて、嘘を並べ立ててやる義理はない。
かつては「教師は聖職」と言われ、生徒たちも、畏敬 の念でもって勉学に励んだそうだ。が、その職務をひと時でも放棄して一般人に任せた結果、どのような処分を受けるに至ったのか、知っておくのも社会勉強の一環だろう。
……とでも思わなきゃ、やってられないよ。真実を伝える俺だって辛いんだから。
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