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55.事後処理(12)

「ねぇねぇ。お兄ちゃんは、レニユニくんからのお返事は電話がいい? お手紙が欲しい?」 「んー? 難しい質問だな。お互いが連絡先を知っているとは言っても、電話はドキドキするんじゃないか?」 「え、どして?」 「例えば俺に思いを寄せてるから……とか」  と、口を滑らせた次の瞬間。ミオが姿勢を変え、ジト目で下から覗き込んできた。こりゃあまずい!  今のミオは確実に、俺がレニユニくんに二心があるのではないかと(いぶか)しんでいる。いらぬ猜疑心(さいぎしん)を招く愚行を働いてしまったな。 「ふーん。お兄ちゃん、あの子たちをそんな風に考えてるんだ」 「あ? い、いや。違うんだ。今のはちょっとしたアヤというか、言葉遣いを誤っただけだよ。てことは――」 「んん? てことは?」 「てことは……そのぉ、お、俺も、ミオだけが好きだってことさ」  あああ、もの凄く照れくさい!! この場には俺たちだけしかいないのに、年下のショタっ娘ちゃんに「好き」と伝えただけで、こうまで頬が熱を帯びるだなんて。  これは佐藤の受け売りだが、恋人同士になった二人は、付き合い続けるにつれ、次第に愛の言葉を伝えなくなるそうだ。その傾向が顕著(けんちょ)に出やすいのは、なぜか男の方らしい。  その心理状態に移行する原因こそ不明だが、抱っこしたり、頭をナデナデしたりして、ミオというショタっ娘の彼女を愛する分には、俺だって何も躊躇(ためら)う事はない。  が、いざ改まって、言葉で愛を伝えようとすると、まるでギリギリ飛び移れるか否かの、底なしの地割れに立っているような緊張感が襲いかかってくるのだ。  たったの二文字なのに。  屁理屈をこねると、お互いが好きだから付き合っているのに、何で改まって「好き」って言わなきゃいけないんだ? という話になりゃせんかと思うのだが、これは絶対に彼女にだけは聞かせちゃダメなやつだよな。 「えへへ、嬉しいな。ボクもお兄ちゃんの事、大好きだよー」  こーれだもんなぁ。どうして同じ男なのに、ミオはサラッと口に出せるのか、不思議で仕方がない。おそらくミオは、彼氏としての俺も好きだという意思を明らかにしているんだろう。  日本全国津々浦々で恋人と付き合っている男たちは、どうやって緊張をほぐしているんだ? あるいはただ単純に、俺がシャイでなければ解決する事柄だったりするのか?  ……なんて事を考えつつ、俺の膝上で寝転んで甘えているミオを見守っていると、オートロックのドア横にあるインターホンがけたたましく鳴った。  何だ? まだ平日の午前中なんだけど、特に誰とも会う約束はしていないし、俺とミオが在宅である事も、一部の人たちしか知らない。  果たして、誰が何の用向きで訪れたのだろう。

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