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55.事後処理(13)
「はい。どちら様で――」
ウチが在宅だと分かった途端、カメラに映った二人組の男性は、応答に待ちきれない様子で喋り始めた。
「早朝から恐れ入ります! 私、嘉良詰 市教育委員会の鞍岡 と申します。〝昨日の一件〟にて、お詫びに伺わせていただきました」
市教委の職員? いち学校の、いち教師の不始末で、わざわざお偉いさんが謝罪に来たのか? しかも二人で?
「あ。右の人知ってるー。ボクたちの学校の教頭先生だよ」
突然の来客が気になるミオは、気配と声を殺しつつ俺の隣に立ち、二人組の右側で、気まずそうに額を拭 っている人物の正体を明かした。
立場上、公立の小学校で二番目くらいに偉い方までもが、こうして謝罪行脚 に出向いているのか。
「お待ち下さい。今、ロックを開けます」
「恐れ入ります!!」
うるさっ! 部活動の挨拶かっての。
こんな感じで、市教委の職員さんがやたら声を張ってくるもんだから、インターホン越しでもうるさいの何の。例に挙げた部活動の挨拶を腐すつもりは毛頭ないが、朝っぱらから、そのテンションに付き合うのはだるいんだよ。
「お兄ちゃん。教頭先生たち、お家に来るの?」
「向こうはそのつもりみたいだな。たぶん、昨日の体育授業がらみで起きた事を洗いざらいぶちまけた後、ゴメンナサイって謝るつもりなんだろ」
「ふーん。ボクもいた方がいい?」
浮かない顔で尋ねてくるミオの質問を聞く限り、この子が乗り気でない事はすぐ分かる。そりゃなぁ。仮に同席して謝られたとて、何か楽しくなるわけでなし。
「いいよ、話は俺が聞いとくから。しばらくの間は、寝室でウサちゃんと一緒にお休みしておいで」
「うん。ありがと、お兄ちゃん」
いかにも名残惜しそうなミオは、椅子並べをしていた俺に抱きついて頬ずりした後、シャツの裾をヒラつかせながら、寝室への避難に向かった。
よほど同席したくなかったんだなぁ。やけに足取りが軽やかだったがゆえか、ミオが寝間着にしているシャツの裾がちょいちょい浮く。それは即ち、淡い紫で縞柄 の「お宝」がこの目に焼き付くという事である。
今日は役得が多いな。まるで、俺が積み上げた善行や徳に応じてご褒美を賜 ったかのような出血大サービスぶりだ。
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