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55.事後処理(22)

「しっかし、何だかなぁ。どのチャンネルでも、ミオが通ってる学校の事件ばっかり取り扱ってさ。もし学級閉鎖してなかったら? と思うとゾッとするね」 「んー? どゆこと?」 「ほら。あんなにたくさんの大人が、こぞって校門の前に陣取ってるじゃん? あの人らの中に、新聞やテレビとは全然関係ない奴が紛れ込んでいたら――」 「あ! それって夏祭りに行く時に教えてくれた、怖いおじさんが隠れているかもってお話だよね」 「そういう事。あえて言い表すなら、二次被害が近いかな」  あまり考えたくはないが、この騒ぎに乗じ、特定した学校へ突撃する輩が出ないとは限らない。ゆえに今、子供たちを無策で通学させるのは極めて危険なのである。  俺は本件に関係するミオの保護者として、当面は警備員を増やし、登下校も集団で行ってはどうか? などの提案を送っておいた。  殺到する電話やメールに埋もれないよう、俺たちだけが知るホットラインを利用した送信なので、お偉いさんも真っ先に読んでくれるだろう。  実現するかどうかの見通しは不透明だけど。 「お兄ちゃん。ガッキュウヘイサって、いつまでしなきゃダメなの?」 「難しい判断だなぁ。皆が揃って体を動かす体育を含めて、全部の授業を受けられるほどに回復するまで……って考えると」 「考えると?」 「熱中症の症状次第だろうね。さすがに、症状の重い子が日帰りで退院できるとは思えないし、元気に通学できるまで、一週間以上はかかるんじゃないかな」 「そんなにひどい病気なの!? 皆、かわいそうだよー」  ミオは体の向きを変えてそう言うと、俺の太ももを挟むようにまたがり、両腕を揺すり始めた。いつも明るいミオが、こうまで不安の色を隠せないのも無理はない。  なぜなら俺もミオも、クラスメートの子もその親も、誰がどのような病気で入院しているのかを、全て把握できていないからだ。  かような状況であるゆえ、俺はミオの頭を撫でて気を落ち着かせ、治療を受けている子らが軽症であって欲しい、と願う事しかできない。 「ちょっと落ち着いた?」 「うん。ごめんねお兄ちゃん。ボク、皆のことがずーっと心配で……」 「よく分かるよ。情報が足りないだけに、尚更心配なんだよな」  ミオは俺の両腕から手を離すと、無言で頷きながら抱きついてきた。ちなみに今はショートパンツを穿いているので、安全度は高い。もっとも、俺の理性を保てる安全度は、という話だが。 「仕事がら、お医者さんと話をする機会があるんだけどさ。熱中症は、次の日こそが要注意だと言ってたよ」 「えー? どゆこと?」 「簡単に説明すると、昨日みたいな猛暑の下、しこたま流した汗に含まれる水分や塩分とかを補給しなかった結果、次の日に熱中症を発病した例が報告されてるんだよ。汗だけが全てじゃないけど、体温の調節という役目で汗を流すのが人体の仕組みだからね」 「じゃあ、熱中症にかかった前の日はどうして平気だったの? スーパーマン?」  どういう思考のめぐりでスーパーマンが出てきたのか分からないが、確かに、熱中症で悩まされなさそうではある。  仮の姿として新聞社に務めるクラーク・ケントですら、その正体はクリプトン星人である以上、地球人とは勝手が違うだろうし。 「きっとその人たちは、スーパーマンじゃなかったんだね。ただ熱中症にかかるまでのタイマーが長かっただけで、しっかり対策しなきゃ、誰でもかかるおそれはあるって証明にはなったわけだな」 「ふむふむ。やっぱりお兄ちゃんは何でも知ってるねー! ボク、そういうところが好きなんだよ」  お医者さん、ごっつぁんです。おかげさまで、恋人のショタっ娘ちゃんから愛の言葉をもらえました。

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