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55.事後処理(24)
「ねぇお兄ちゃん。他のお話してもいい?」
「もちろん構わないよ。どんなお話をしたいのかな?」
いつまでも、彼氏の太ももに乗っかったままでは負担がかかると思ったのか、ミオは先ほどから俺の隣に腰掛け、並んでテレビ番組を見ている。
よほど気に入ったらしい俺の丈余りTシャツは、そのまま部屋着として使い続けるのかな。いつもとは違った角度で、ミオの美脚が眺められるのは新鮮ではある。
「お兄ちゃんって毎日、おヒゲを剃ってるでしょ? ブイーンって機械を使って」
「ああ、仕事に出かける前の話だな。その『機械』の名前は、電気シェーバーって呼ばれる事が多いみたいだね」
「電気シェーバー? シェーバーって何?」
「この場合は〝剃る道具〟みたいな意味だな。つまり、電気で動くヒゲ剃り器ってやつさ」
「なるほどー。……んん? じゃあ、電気で動かないヒゲ剃り器もあるの?」
ミオが首を傾げ、さらなる疑問をぶつけて来た。個人差はあるが、この子はまだ十歳だから、ヒゲどころか脇毛すら生えていない状態だ。ゆえに未知のアイテムが気になって仕方ないんだろう。
「あるよ。そっちはカミソリって呼ぶんだけど、テレビのCMで見た事ない? こんな感じで顔をなぞってるやつ」
頭を左右に動かし、その手に握られた「エアカミソリ」でヒゲを剃るジェスチャーを見せたところ、一発でピンと来たようだ。
「あ! それならボクも知ってるー。お顔に泡をつけるんだよね」
「そうそう。どっちを使うかは好みっていうか、その人の肌質次第だな。カミソリが合わなきゃ電気シェーバーで剃るしかないし」
カミソリが合わない。その理由の代表的なものが「カミソリ負け」だ。ミオにも分かるよう簡単に説明すると、カミソリを当てる肌は必ずしも平坦ではないため、ほんのちょっと出た隆起の部分をも剃ってしまう場合がある。
隆起の正体や原因は様々だが、肌に傷がついた以上、何もしないと血は出るし、肌荒れもする。「剃った後の顔がヒリヒリして痛い!」と感じるのは、直接刃物を当ててヒゲを剃ったからであって、アフターシェービングが万全でないと大体そうなる。
それでもT字カミソリは進化に進化を重ね、我々人類は、「横滑り」による怪我をシャットアウトする技術を手にした。カミソリ負けせず、剃る前と後のケアを施す時間的な余裕があるなら、深く剃れるカミソリを選んで損はしない。
「お兄ちゃんは、カミソリでヒゲを剃ったことあるの?」
「結構あるよ。こないだ泊まったリゾートホテルでもカミソリで剃ってたな。大浴場の洗い場に鏡があっただろ? あれを見ながら剃るんだよ」
「へぇー。初めて知ったかも。洗い場の鏡って、そんな使い方もできるんだね!」
あの日の入浴では、俺がヒゲを剃っている間、ミオの頭はシャンプーの泡でモコモコだったからな。こっちの動向に目を配ってる場合じゃなかったんだろう。
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