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55.事後処理(26)
「え? カキトメ? なぁにそれ?」
俺は、配達員さんから受け取った書留郵便の封筒を裏表にひっくり返して見せてみたが、今ひとつピンと来ないらしい。
「簡単に言うと、補償がある郵便だな。封筒に貼ったシールの枠に受領印……ハンコをついて受け取る郵便でね。送り主さんは、ちゃんと届いたかどうかを調べる事もできるんだよ」
「ふーん。じゃあ、この封筒に赤い字で書いてある漢字がカキトメなの?」
「そ。今ミオが持ってる封筒の赤文字には簡易書留 って書いてあるだろ? それは書留郵便の中で、最もお手軽なんだ」
ミオは郵便の仕組みや送り方に興味があるらしいが、俺が語りだすと日が暮れるほど細かくなるので、至極ざっくりとした説明に留めた。
「で、こうして手渡しで届けてくれるじゃん? 他にも、仮に封筒の中身が破損とか汚損でボロボロになったら、さっき話した補償をしてくれるのさ」
「そうなんだ。お仕事のお手紙なの?」
「いやー、違うんじゃないか? 封筒に書いてある宛名が俺とミオ、二人分になってるし」
「ふむふむ? ってことは、ボクにもご用事があるお手紙なのかなー」
「たぶんね。そういう意図でないと、普通は二人分書かないと思うんだよ」
インターホンのやり取りで「書留でーす」と聞かされた時には、まさか裁判所から差し出しされた特別送達ではないか? という不安が頭をよぎった。差し出し人が裁判所である以上、逆ギレした「あの女」が訴状を送り付けてくるおそれは充分に考えられる。
それを防ぐために、昨夜かけてきた電話の通話内容を録音し、留置所の所長さんと、俺が尊敬する上司、権藤課長にデータ化して送ったのだ。
自分のスマホを持たない立場の容疑者が深夜、誰かに電話をかけるならば、留置所の職員をかどわかすしかない。が、貸したスマホの持ち主がもしも所長本人だったら、その罪を握りつぶされてしまう危険性がある。
そこで俺は朝イチの電話で課長に相談し、秘密裏 に録音データを預かってもらったのだ。
課長はいつも通り、至極冷静なトーンで「私に任せておけ」とだけ答え、それ以上は何も聞いてこなかった。無類の頼もしさを誇るお人だからこそ、こんな私事でさえ課長に甘えてしまっている。ダメな大人だな、俺は。
「宛名だけ見ると、どことなく辿々 しいっていうか、子供っぽさがある筆跡だな。かなり力を込めて書いてるね」
「えー? どうして力を込めたって分かるの?」
「黒いインクで書かれた線の真ん中を見てごらん。くぼみがくっきりと見えるだろ?」
「うん。ピカピカした見え方で確かめると分かるー」
「たぶん、緊張で力んだからだと思うんだけど、ギュッと押し付けるように書くと、こんな風にインクのにじみと一緒にくぼみが残るんだよ。で、力の入れすぎでペン先が折れると困るから、直径一ミリくらいのモノを使った。そんなとこかな」
「すごーい! お兄ちゃん、そこまで詳しく分かっちゃうんだ。探偵さんみたいだねっ」
ミオは封筒を持ったまま俺の両手を握り、キラキラとした眼差しを向けてきた。さっきの推理は、人生経験の積み重ねで覚えた特徴 に当てはまっただけだから、尊敬されるほどではないんだよな。
でも嬉しい。だってミオは「最高の彼女」だから。
……とまあ、惚気 けるのはこのくらいにして、さっそく封筒を開けてみよう。送り主についてだいたいの見当はつくが、中身を確かめてからのお楽しみだ。
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