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56.お手紙着いた!(2)

「よく分からないけど、家政婦さんが手紙の置き場所を間違えた、みたいな話なのかな?」 「ちょっと読んでみるね。『せっかく送ってくださった柚月さんと未央さんからのお手紙を、家政婦さんが仕分けを間違えてしまって、僕たちに届くのが遅くなってしまいました。本当にごめんなさい!』だってー」  仕分け? 仕分けねぇ。個人的には、あんまりイメージの良い言葉とは、って話はどうでもいいとして。そんなパーソナルな物の分類まで任せるほど、如月家に届く郵便物の数が多いと? 「お兄ちゃん。お手紙の仕分けって何するの?」 「さぁ? 想像しながら喋るから間違ってるかもだけど、あのたちの家は、基本的にお父さん、お母さんとたちとの四人暮らしだろ?」 「うんうん。日本人のお父さんと、あめりか人のお母さんだよね」 「そそ。以前ほどじゃないけど、ご夫婦が出張で家にいない日があるなら、郵便物の受け取りも家政婦さんがやるって話なんだろ。子供に見せちゃダメな郵便物もあるだろうしな」 「んんん? 子供に見せちゃダメな郵便物ってなぁに? エッチなの?」 「ち、違うよ! ……いや、確かにエッチな郵便物も見せちゃダメだけどさ」  一体、俺は、何の話をしているんだ? そもそもエッチな郵便物が何を指すのか分からない。俺が聞き及んだ具体例では、成年雑誌のコーナーへの掲載を目指すべく、ハガキの裏に「そういう絵」を描いて投稿する文化はあったそうだ。  それが問題にならないのは、配達する郵便を走行ルートごとに分けて並べていく際、宛先の住所と名前を見れば情報は足りたからだ。したがって、やむを得ぬ事情でもない限り、郵便局の職員は、ハガキ等の裏側を見てはいけないのである。 「例えばキャッシュカードを発行する方法として、本人限定受取郵便ってのを使う場合があってね。宛先に書かれた人以外に手渡したら、郵便局が怒られちまうんだよ。これは子供はだけじゃなくて、本人以外の同居者が誰であっても例外なくダメなんだけどな」 「そうなんだ。郵便にも色々あるんだねー」 「まぁまぁ、それはいいとしてだ。仕分けの何が原因で、手紙があの子たちの手元に届かなかったんだい?」 「えっとぉ。ラブレターの箱に分けて置いてあったから、気がつくのが遅れたんだって」  はい? ラブレター?  まさかの恋文(こいぶみ)? 「な、何だ? ラブレターの箱って。そのための箱を作らなきゃいけないほど、ラブレターが殺到するって話?」 「っぽいよ。ユニィ君のお便りに書いてあるけど、レニィ君、男の子にすっごくモテるから、いっぱい届いて困るんだってー」  その話を聞いて、やっぱりなぁとは思った。母親譲りのブロンドヘアーが眩しい、おしとやかなレニィ君。華奢(きゃしゃ)ではあるが、美貌においては、ウチのミオにも引けを取らない。衣装を変え、ティアラを被せたら、お姫様が二人並んでいるようにしか見えない。そのくらいの美ショタなのだ。  ちなみに。双子の弟であるユニィ君にもラブレターが届くようだが、活発で運動が大好きな子だからか、女性からが半分、男性からが半分との事だった。そりゃ当たり前か。何しろ双子の弟なんだから。  ラブレターかぁ。俺には全く縁のないシロモノだったな。うらやまし……くはないと思いたい。 「酸っぱい葡萄(ぶどう)理論」でなく、単純に、見知らぬ人から届けられた恋文に何が書いているのか、一通一通に目を通すのはおそろしく時間のかかる作業だ。罠かも知れないし。

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