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56.お手紙着いた!(3)
「全くの初耳だな。あの双子ちゃんたちがそんなにモテていただなんて。俺たちと会っている間は、おくびにも出さなかったじゃん」
「だねー。そういうお手紙のことを忘れたくて、ボクたちにお話しなかったんじゃない?」
「なるほど、それはありそうだな。両親は有名な考古学者で、子供がとびっきりかわいい双子の男の子。注目されない方が無理なのかねぇ」
「何もしないで、ラブレターがいっぱい来るって考えにくいでしょ? ひょっとしたら、レニユニ君ってアイドルか何かかもだよ」
確かに、アイドルなら知名度はバツグンだから分からんでもないが、その後にミオが付け足した「何か」って何だ?
子役? モデル? アスリート……のセンはないか。兄のレニィ君はミオと同じで、運動が苦手だって話してたしな。いや待てよ。ゲームの腕前で名を上げたなら、eスポーツのアスリートではあるのか。
「だけどさ。もし、あの子たちがアイドルなら、俺たちがテレビで見かける機会は何度もあったはずだろ?」
「そだね。でも、テレビでもネットでも見たことはないなぁ。『はつらつ小学生』のご本にも載ってなかったし……」
たぶんこの場に佐藤が居合わせたら、「そんなんで想像を働かすよりもや、お互いの連絡先はとっくに交換してんねんから、直接電話で聞きゃええやん。奥手な奴 ちゃのう」と言うだろう。
ごもっともな指摘なんだが、現在時刻から推測するに、まだあの子たちは五時間目の授業が終わったくらいじゃないか? と考えると、さすがに直電なんかやっている場合ではない。
そもそも俺たちは、まだお手紙の返事を全て読みきったわけではない。だからこそ、まずは各々がどんな返事を書いて送ってくれたのか、目前にある「お楽しみ」をしゃぶり尽くす事こそが先決なのだ。
表現がおかしいから誤解されそうだけど。
ちなみに、レニユニ君からのお便りは、全てミオに音読を任せる事にした。同い年くらいの子が、現状で習得している漢字の読みに詰まる事はないし、時折混じっている英語筆記も、俺が翻訳して教えてあげれば済む。
英語表記についてはおそらく、日本でどう言い替えるのか分からない言葉は、そのまま英語で書いた方が、変な誤解を招く心配がないと判断したのかも知れない。
尋ねた両親からの回答がどちらの言語だったのか? という見分けはつくよな。
「――で、ピーエッチ? ワイ? ねぇねぇお兄ちゃん。これ何て読むの?」
「どれどれ? ああ、『Physical Therapist』か。読みはフィジカルセラピスト。つまり理学療法士の事だね」
「なぁに? リガクリョウホウシって。両方死ぬってこと?」
「そ、そんな縁起でもない事は書かないよ。理学療法士ってのはさ……」
こうやって、理学療法士がどのような役目を果たす職業なのか、説明する事はできる。ところが英語表記となると、その職業は日本語に訳すと何であるか? で詰まる人はかなり多い。なぜなら日本人の患者相手に、英語表記で職業名を明かす必要がないからだ。
ゆえに、整形外科の院内で、理学療法士を「〇〇PT」と呼ぶ理由も分からないのである。
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