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56.お手紙着いた!(4)
「お兄ちゃんって英語いっぱい知ってるねー。今度、学校にエーカイワの先生を呼んでお勉強することになってるんだけど。分からないとこが出たら、お兄ちゃんに聞いてもいーい?」
「もちろんいいよ。手取り足取り教えてあげるから、何でも質問しておいで」
「やったー! ありがと、お兄ちゃん!」
ミオは弾けんばかりの笑顔を見せた後、手紙をほっぽらかし、何のためらいもなく抱きついてきた。
「おっとと。ウチの子猫ちゃんは今日も甘えんぼうだねぇ」
「にゃーにゃー!」
届いた手紙の返事を読むより、俺に英語のレクチャーをしてもらえると決まった事の喜びが勝ったようだ。まぁ当たり前ではあるのか? ミオにしてみれば、彼氏にマンツーマンで教えてもらえるんだから。
うっかり口をついて出た「手取り足取り」に気づかれなくて良かったぁ。手はともかく、英語に足を取って教えるって何なんだよ。これじゃよくある、三文芝居の変態上司役じゃないか。
俺が英語の授業を初めて受けたのは、確か中学一年生の頃だった。「ディス イズ ア ペン」なんて初歩の初歩だから、俺と同年代の人なら、たぶん誰でも覚えているはずだ。
そんな話はどうでもいいが、ミオが通う学校は、小学四年生から英語に触れ合う方針を採っているんだな。個人差こそはあるものの、若ければ若いほど、脳みそがあらゆる知識をスポンジのごとく吸収していくから、勉強するのは早いに越したことはない。
とは言ったものの、いきなり「be動詞を覚えましょう」なんて言わないだろう。まずは「英語とは何であるか?」といった根本からの教育が取っ掛かりになるんじゃないだろうか。その次がアルファベットの発音と書き取りかな。
「まま、英語の勉強はそれでいいとして。手紙に書いてあった理学療法士は何の話題なのかな」
「ちょっと待ってね。今から続きを読むよー」
即座に甘えんぼうスイッチがオフに切り替わったミオは、手紙を手に取り、続きを音読し始めた。
「んー? これって、レニユニ君のお父さんとお母さんのお話みたい。何だか二人とも、腰が痛いんだって」
「腰が痛い? ご両親揃って?」
「みたいだよー。飛行機に乗りすぎて痛いって書いてあるけど」
「ああ。だから理学療法士さんに、腰の痛みを取ってもらうマッサージをお願いしてるって事か」
何しろ双子ショタっ娘ちゃんのご両親は、依頼があらば世界中のどこにでも飛ぶそうだから、フライト時間が長いと腰やら背中やらがしんどくなってくるんだろう。毎度ファーストクラスを取ってもらえるわけじゃなさそうだし。
「でもでも、飛行機に乗ってお出かけする回数は、半分くらいに減ったっぽいよ」
「半分まで? もっと子供たちに寄り添うとは言ってたから、心を改めた結果がそれかも知れないな」
ミオはうんうんと頷くと、何かを思い出したかのように、とある曲をハミングで歌い始めた。
この曲には聴き覚えがある。双子のショタっ娘ちゃんを連れて遊びに行ったカラオケルームにて、俺がミオのリクエストで歌った『魔法少女プリティクッキー』の主題歌だ。
あん時ゃ意地を張って「原曲キーで歌う!」と決めたもんだから、サビの部分で意識が飛びそうなほど絶唱したもんだ。ミオとレニィ君による期待や合いの手がなけりゃ、たぶん妥協してキーを下げていただろう。
人混みが苦手なミオでも、カラオケボックスの個室ならば、気心の知れた人たちだけで楽しめる。他にも似たような娯楽があれば、積極的に連れて行ってあげたいんだけどな。
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