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56.お手紙着いた!(7)
「昔のラブレターは、二人っきりになれる場所を選んで渡したり、学校の下駄箱……現代的に言うところの〝靴箱〟に忍ばせておいたりしたそうなんだがな」
「靴箱って、上履きと靴を履き替えるとこだよね?」
「そう。っていうか、今でも上履きって言葉が生きてるんだな。まぁ呼び方はとにかく、そこなら絶対にラブレターに気がつくだろ?」
「んむ? でもお兄ちゃん。ウチの小学校の靴箱はカギで開けるから、閉まっている時にラブレターを入れるのは無理だよー」
鍵付き! それは盲点だった。
現代社会において、確かに、誰もが自由に他人の靴箱を開閉できてしまう学校は、安全面への配慮を著しく欠いている。
あまり悪い方に考えたくないが、そうやって施錠ができなければ、履き物を隠されたり盗まれたりといった、いじめや犯罪の温床になりかねない。だからこそのカギなんだろうな。
「そっか。じゃあ、仮に俺がミオと同い年だとして、学校内でラブレターを渡すとしたら、何かいい方法はある?」
「え! お兄ちゃんがくれるの?」
「うん、仮にね」
「嬉しいなー。えへへへ」
ミオの喜びようを見るに、俺の「仮に」という前置きは、既にどこかへ飛んで行ってしまったらしい。
他の誰でもなく、ずっと逢いたかった人からラブレターを貰える。ミオにとってはそれだけで充分だと思ったからか、より愛おしそうに俺の腕を抱きしめてきた。自分の胸をも密着させている理由 は、高鳴った鼓動を聞かれちゃうのが恥ずかしい……みたいな乙女心の表れかも知れない。
「――で、ど、どうかな。その、方法の話なんだけど」
「んー、どうなんだろ。学校の中で渡すラブレターでしょ? 同じ学級の子なら、休み時間のうちに、好きな子のノートに挟むって聞いたことがあるよ」
「ノート?」
「そだよ。机の中のノート。開かないページの間に挟んだら、授業中でも落っこちなくて済むんだって」
「じゃあ、教科書は?」
「教科書はダメだよー。国語のローソクの時に落としちゃうって、里香 ちゃんが言ってたもん」
ローソク? 何ゆえ?
例えば、四谷怪談が採用された国語の教科書を朗読する折に、怖い雰囲気を演出するために照明を落として、ローソクの灯火 だけで読む……じゃないな。考えてるうちに正解が出ちまった。
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