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56.お手紙着いた!(11)

「ねねね、お兄ちゃん。さっき、ボクが送ったお写真とめっせーじって、レニユニくんのどっちに届いたの?」 「うーん。俺たちに教えてくれた連絡先は、スマホ一台分だったから、どっちの名義か分からないな。もしかしたら共有してんのかもね」 「ん? どゆこと?」 「要は、二人で一台のスマホを使ってるかも? ってことさ。ただ、電話の機能は共有できないから、おいそれと持ち出せはしないだろうな」  首をひねって考え込み、ハの字になったミオの眉毛を見るのは結構楽しい。会社勤めで生計を立てている俺や佐藤は「感情を顔に出すな」と口酸っぱく繰り返されてきた。その教えを守った結果、どんなに理不尽で横柄な顧客との商談でも、怒りで表情が引きつったり、ゆがむ事は全くない。  ミオも大人になったら、俺と同じことを叩き込まれるんだろうけど、せめて今のうちだけは、くるくると変わる、ショタっ娘ちゃんの愛らしい表情を眺めていたいよな。 「あるいは――」 「え? なになにー?」 「あるいは、自宅にだけ置いている、二人用のスマホかも知れないぜ。推測だけどね」 「何のために置くの?」 「うっ」  思いつきで浮かんだにしては、割といいセン突いてるんじゃないか? という自信こそはあったものの、それを上回る質問をぶつけられ、答えに(きゅう)してしまった。 「えーとな。えーと、た、たとえば、スマホを三台持ってるから……とか?」 「へ? レニユニ君だけで三台持ってるの? スマホを?」 「そう。双子ちゃんにとって共通の友達とか、お祖父さん、お祖母さんたちとやり取りをする場合、代表的な一台があったら便利だろ?」 「うーん。それって三台なくても充分じゃない? 電話は代わればいいだけだし」  まいった! 確かにミオの言う通りだ。メッセージを送り合うアプリとて、祖父母や友達だけを招いた、パーソナルなスペースを確保すれば事足りる。したがって、俺の推測では、三台目を買う決定的な理由にはならない。 「ごめん、ネタ切れだ! 無い知恵を絞って考えてはみたけど、他のシチュ、じゃない、状況が浮かばなくなっちまったよ」 「もう。謝らなくていいのにー! お兄ちゃんがボクのために、一生懸命考えてくれただけでも嬉しいんだからねっ」  優しい子だなぁ。俺がミオに慰めてもらう事はほとんどないのだが、今日はこうして言葉だけでなく、頬をすり寄せて(ねぎら)ってくれる。それこそ子猫のように。 「でも、こういうのって、あの子たちにも聞きにくいよねー。『どうして三台持ってるの?』とか、実はすっごい〝ぷらいべーと〟なお話かも知れないし」 「そうだな。まだ、文通を始めたばかりの関係だし、あのスマホが三台目なのかどうかは、気安く話し合える仲になってからでも遅くはないかもだね」  ミオはコクコクと頷き、テーブルに広げられた、如月兄弟からの手紙と写真に目をやった。書留郵便として送られたこの手紙をいち早く受け取れたのは、今日が学級閉鎖の初日だったからである。  原因が原因なだけに、とても喜べたものじゃあないんだけど。

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