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56.お手紙着いた!(12)
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少し早めの夕食を済ませ、リビングでくつろいでいたところ、俺とミオが持つスマートフォンが、各々の持つ機種独特の通知音を鳴らした。
通知音はいずれもメッセージアプリによるもので、ミオが送った「お手紙着いたよ!」という確認に対する返事のようだ。
「この丁寧語で書かれた文章はレニィ君のものだろうね。律儀に俺とミオにそれぞれ送ってくれたのが、何ともあの子らしいというか」
「んん? お兄ちゃんのは分かるけど、あの子たちにお手紙を出したのって、ボクがスマホを買ってもらう前だよね」
「だな」
「じゃあレニィ君、ボクのスマホにはどうやって送ってきたの?」
「どうやってって……そりゃ、送り先にミオのメールアドレスが載ってたからだよ。電子メールでは、必ず送り主のメールアドレスが載る仕組みになってるからね」
「じゃあ、〝めーるあどれす〟はお手紙に書く住所みたいなの?」
「おっ、賢いじゃん。その通りだよ」
似たような例を示すなら、通話を試みた相手の電話番号が分かる、ナンバーディスプレイ式の電話機などを想像すると分かりやすい。
もっとも、迷惑メール等を代表とした詐欺の一環で、小細工を弄 して送り主のメールアドレスを偽装する事はできる。だから厳密には「必ず」とは言えないのだが、今はその話をするタイミングではない。
「レニィ君のお礼メールを読む限り、よほど俺たちからの手紙が待ち遠しかったんだろうな」
「うんうん、間違いないね。あのホテルでジュースを飲んでた時、お兄ちゃんのこと、ずーっとアコガレの目で見てたもんねー」
ミオはそう言うと、何らかの含みを持たせたような目で、俺に微笑みを向けてきた。ヤバいヤバい。顔こそは笑っているけど、瞳の奥では対抗心の炎がメラメラと燃え上がっている。
「ままま、そうは言うけど結局は、スキー場での出会いみたいなもんよ。滑りがうまくて、雪焼けした肌とか、ゴーグルに隠された顔がイケメンかも知れないって思ったら、ちょっと好きになっちゃうだろ?」
「えー? そんなの絶対にないよー。ボクが好きなのはお兄ちゃんだけだし。ゴーグルの人がどんなにかっこよくても、お兄ちゃんじゃなきゃ恋したりしないもん」
「そ、そうなの? 何だか嬉しいなぁ、あははは……って思わず照れ笑いしちまったけど、ほんとに嬉しいよ。ありがとな」
照れ隠しの意味も含めてミオの頭をポンポンすると、うっとりとした表情で、俺にもたれかかってきた。今更言うのも何だが、うちの子猫ちゃんはすっかり俺に首ったけだ。
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