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56.お手紙着いた!(13)

「じゃ、このメールへの返事は俺がやっておくよ」 「うん。おねがーい」  今日のミオは一日中甘えっぱなしだ。まぁ、たまにはこんな日があってもいいよな。  何しろ昨日は大変な目に遭ったもんだから、最も安心できる我が家で、大好きな俺と一緒にいられる幸せを改めて噛み締めているのだろう。  こう分析すると自画自賛のようだが、ミオ自身が抱く、「お兄ちゃんのお嫁さんになる!」という強い意思は恋愛感情以外の何物でもない。 「よし、送信終わりと。こうしてあの子たちとの交流が再開するのは、どこか感慨深いものがあるな」 「でも、そのメールをもらったスマホが何なのかは結局分かんないままだねー」 「確かに。ま、何かしらの理由があるのは間違いないから、そのうち明らかにしてくれるだろ」 「うんうん。もっと仲良くなった時に教えてもらおー」  という声の明るさから察するに、推測の域を出ない理由の答え合わせができない以上、あれこれ考える必要もないと割り切ったのだろう。  ミオはすっかり安心しきった様子で、俺の腕に頭を預けたまま、ごくありふれたクイズ番組を、ぼんやりと眺めている。 「明日は何しようかなー。お家から出たら絶対怒られちゃうよね……」 「ごめんな、ミオ。せっかくだからどこかへ連れて行ってあげたいんだけど、俺も明日は会社へ行かなきゃだから」  俺がミオに謝った理由は、学校側によって、始業から放課後までの間に外出した児童は、もれなく補導の対象になるとの注意喚起がなされたからだ。極端な例を挙げると、徒歩で一分ほどの文房具店にまで行っても、そこに補導員がいればとっ捕まる。  つまり、学級閉鎖が解除になるまでは、ミオたち児童らは原則として「カンヅメ状態」でなくてはいかんと通達してきたのである。これが謝らずにいられようか。  ちなみに我が県においては、学生らを補導する団体のほとんどは、県警のOBによるボランティアで成り立っているケースが多い。  彼らの行動原理は少年少女の非行を未然に防ぎ、(いまし)める事であるから、学級閉鎖という特例でも一切の容赦はない。どうしても出かけるというのなら、保護者や、それに準ずる立場の人による同伴や引率がなくてはならないのである。  しかし明日の俺は、昨日から今日にいたるまでに何が起きたか、その報告をするための出社を命じられている。ゆえに明日は少なくとも、定時まではミオのそばにいてあげる事ができないのだ。  仕事も溜まってきただろうから、いつまでも佐藤に代理を任せるわけにはいかないし。 「んーん、いいの。こんな時に一人でお出かけしても、何だかいけないことをしてる気になっちゃうから」 「いけないこと、か。そういや俺が高校生の頃、一時間目だけ授業をサボって、サ店でクリームソーダを飲み食いした事があるんだけどさ。あの時はさすがにヒヤヒヤものだったよ」 「あははは。何それー」  一見、不良行為のように見せかけて、実は大遅刻が原因で一時間目までに間に合わなかっただけの笑い話だ。  で、どうせ怒られるなら、うまいものでも食って覚悟を決めよう、と思ったがゆえのクリームソーダだった。あの時の落ち着きのなさといったら、さぞや珍妙に映ったんだろうなぁ。

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