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57.鬼と狂犬、狭間に俺(9)

「なるほど、さすが柚月君は詳しいね。その奈良県を差し引いても、なお影響力がある大物って事なんだろ?」 「だと思います。庭造りで億単位のお金が動くのも、ひろーいお庭と潤沢な資産があってこそなのかなぁと……」  というのが、一般論に基づいた推測だ。ただそれだけでは、関東地方の本社に勤務する俺が、ご指名に預かった理由の説明にはならない。  さりとて、だ。それほどの資産家が、ただのお(たわむ)れで、俺を大阪にまで呼びつけるとも考えにくいんだよな。 「何にせよ、交わした契約内容に従って仕事をやりとげりゃ、本年度で最もデカいお金が動くのは間違いないだろうよ。良かったじゃないか柚月、冬のボーナスは三桁になるかもな」  え! 三ケタ? つまり百万単位の賞与(ボーナス)が貰えると!?  何なんだこの流れは。要するに、俺が豪運の持ち主ということなのか?  今しがた、勝本課長が試算した賞与の明細書を想像しただけで手汗が止まらないんだが、こんな俺でも大役を果たせるのだろうか。 「勝本、あまり先走った話はするな。きさまの計算がただの皮算用だとしても、柚月が背負うプレッシャーは、時として毒にすらなりかねないんだ」 「それを克服してこその成長だろ? もっとも、この依頼にワナが無ければの話だがな」 「ワナだって? なかなか物騒だねぇ。とにかく柚月君にも知らせる事はできたし、まずは内密で、お客様の情報を集める事から始めようか。それまでは、仮契約という扱いにしてさ」  秋吉部長の提案を良い落とし所だと判断したのか、課長コンビはまるで示し合わせたかのように、無言で大きく頷いた。  何だかんだで息が合ってるな、このお二方。実はただのケンカ仲間だったりするのかねぇ。 「方針は決まったな。柚月、すでに聞いているとは思うが、今日は半ドンで帰っていいからな」  何だか、自分ばかりが優遇されているような気がして申し訳なかったが、それを言葉にすると、ミオにまで責任があるかのような口ぶりになってしまう。  なので、俺はただ一言「お心遣い痛み入ります」と、感謝を申し伝えるだけに留めておいた。少なくとも俺の場合、受けた恩義は仕事でこそ返すべきだ。  無事に半ドンできたら、我が家の(いと)しいショタっ娘ちゃんに、お昼は何が食べたいかを聞かなくちゃな。

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