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58.いざ大阪(1)

 柚月義弘(ゆづきよしひろ)、仕事は営業職。うだつの上がらぬ二十七歳。そんな男が今、東海道新幹線の下り便に乗って、新大阪を目指している。  その目的はあくまで仕事のための出張であり、決して物見遊山(ものみゆさん)ではない。  ただひとつ、本来の出張とは違う点を挙げるならば、ショタっ娘ちゃんのミオが俺の隣に座っている事だろう。  天涯孤独の身として、この歳まで児童養護施設で育ったミオの養育里親になったのはいいが、俺には嫁さんがいないので、実質シングルファザーという事になる。  そのような状況下で、俺だけが大阪へ行ってしまうと、まだ幼いミオ一人に留守番を強いる羽目になる。これは非常にまずい。  よって俺は今回の出張に際し、権藤課長のお許しを貰った上で、ミオを連れて大阪へ赴く事にしたのである。  俺が働く会社では、自己都合で出張に連れ添う人の交通費やら宿泊料やらを負担する義務がない。普通はどこだってそうだろうが、とにかくこの出張の主目的はあくまで仕事。残りが養育だ。  ただ、俺とミオの関係は恋人同士でもあるので、デートという側面がある事も否定できない。結婚の約束まで交わしちゃったし。  にわかに信じられない話かも知れないが、近代の男の娘ブームに端を発した恋愛の多様性は、れっきとした男の子でもお嫁さんになれる資格を持てるようになったのである。もっとも事実婚で、という断り付きだが。 「どうだい? ミオ。初めての新幹線は」 「すっごく速いよー。シンカンセンって、お兄ちゃんの車より速いよね?」 「まぁ速いわな。今乗ってる新幹線の最高速度が時速三百キロだから、車で高速道路を走ったとしても、まだ三分の一しか出ないもん」  F1マシンも車に分類してもいいなら、さすがに新幹線を上回りはするけど、あれは公道を走る想定の設計じゃないからなぁ。  一人乗りじゃミオを連れて行けないし。 「ねぇねぇお兄ちゃん。新幹線に乗ったら、月までどれくらいかかるの?」 「え? スペースシャトルとかじゃなくて、新幹線で月に行くって話?」 「うん。だってこんなに速いんだよ。宇宙にレールを敷いたら、新幹線で旅行できるかなーって思って」  何とも子供らしさにあふれる、かわいい発想だなぁ。初めて乗る新幹線がよっぽど気に入ったんだろうけど、いざ月まで行くとなったら、レールの敷設だけでとんでもない作業になりそうだぞ。 「宇宙旅行って、つまり月へ遊びに行ってみたい――ってこと?」 「そーだよ。月にはウサちゃんがいっぱいいるって聞いたから、おやつのニンジンを持っていってあげたいの」  もぅ。優しい子だねえ、ほんとに。ミオはウサギが大好きだから、きっと月面の凸凹(デコボコ)も、ウサちゃんのように見えているんだろうな。

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